そうかなぁ

その方が気が楽だ。

どうせリーデルの件で話があるのだろう。


――というかアーネストさん、

――何で私のアドレス知ってるんだろう。

――教えたことないのに。この人の異能なのかしら。


「アーネストって、さっき言ってたヤツだよな?」

「うん。ジョエルの知り合い?ってか友達みたいな」

「って事は年上だよな?」

「そうだね」

「…やっぱ年上が好みなのか?」

「どうしてそうなる」

「この前だってずっと傍にいたい人って言ってたヤツも調停局だから年上じゃん?」

「否定はしないけども」


勝手に妄想を繰り広げる昶は、全く聞く耳を持っていないようで、否定することすらやや疲れ始めたあかねは溜息をこぼす。


「いいなぁ……あかねはこの後デートか」

「だから違うって…ハァ」

「オレも可愛い女子とデートしたい」

「彼女作れば?」

「ナンパしてもスルーされるんだよ、これが」

「そういう男はダメだと思います。気になってるなら、山川さんに声掛けたら?」

「いやいやいや!それはハードル高いって!」

「ナンパしてるのに?」

「それは違うんですよあかねさん」


――そんなものだろうか。


とはいえ、あかねが山川朔姫とは、軽い挨拶程度の言葉しか交わしていない。

更にリーデルの一件から、話し辛い状況になりつつある。あくまで個人的にだが。

しかし昶の場合は、あくまでクラスメートとして話せば良いのではないか。


「話してみればいいじゃん。同じクラスメートなんだから」


気軽に言ったつもりだったが、昶は驚愕とした表情を浮かべていた。

そして勢いよく手を前に出したと思ったら、大袈裟なほど横に振った。


「絶対無理!無理!大抵ノリで話せるけど、山川さんはそういうの通じなさそうじゃん!」

「そうかなぁ……」

冷たい印象を覚えさせるが、当の本人は普通の子のような気がするが。


「桜空さん」


自分を呼ぶ声が聞こえて振り向けば、教室の入り口付近に、今話題に出ていた山川朔姫その人の姿があった。


「山川さん…!」


あかねは小走りで、入り口にいる朔姫の元に駆け寄る。


「どうしたの?」

「姿が見えなかったから、探しにきたのだけれど……邪魔だったかしら?」


朔姫は昶に一瞬だけ視線を移し、気まずそうに尋ねる。


「そんな事ないよ」

「でも…彼氏なんでしょう?」

「え?」

「香住くん。桜空さんの彼氏じゃないの?」

「は!?」


その言葉に昶が声を大きくあげる。

それに驚いたのか、朔姫は一瞬だけ肩が跳ねては、目を丸くしていた。


「あー……昶はダチだよ。彼氏じゃない」

「そうだったの?いつも一緒にいるし、みんなそう話してたから、てっきりそういう関係なのかと」

「違う違う!だよね?」


後ろを振り向いて同意を求めれば、昶は大きく縦に力強く頷いた。

すると朔姫は恥ずかしげに頰を少し赤らめ、眉を下げた。


「…ごめんなさい。勘違いしてしまって。不快だったかしら」

「平気平気。驚いただけだから」


そう笑顔で答えたが、朔姫はだんまりとしてしまい、昨日のように会話が途切れる。


「えっと………そうだ、校内見学は?」

「さっき終わったわ。みんなもうすぐ戻ってくると思う」

「楽しかった?」

「ただ校内見て回っただけだから」

「そっか。そうだよね」


単調に終わってしまい、会話が続かない事を密かに悩む。しかし今度は、朔姫から問い掛けてきた。


「桜空さんはずっとここにいたの?」

「うん。昶と一緒に喋ってたよ」

「そう……仲が良いのね。サボりは良くないけど、そういうの少し…羨ましい」

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