夢じゃないわね

僅かに微笑む朔姫に対し、あかねは目を丸くする。

異能者の対人関係は、やはり容易ではないのだろうか。


「…山川さんは?友達出来た?」

「クラスの子達と話してはいるけど……そういうのはまだ分からないわ。話すのは、あまり得意じゃなくて」

「そっか。じゃあ」

「え」


あかねは朔姫の腕を掴んで、軽く引っ張りながら歩くと、昶が座っている席まで連れて行く。

彼の目の前に着くと、振り返って朔姫に笑いかける。


「紹介します!こちらちょっと残念なダチの香住昶くんです!」

「よろしく!ってオイ!残念って何だ!?」

「適当に言ってみた」

「適当ってお前な」

「あら、私のこと変わってるとか年上好きとか言うくせに?」

「い、いやぁ…それは」


突如掛け合いをする二人に、驚いているのかついていけてないのか、戸惑いの表情を浮かべる朔姫。


「あのね山川さん。昶ってば、あなたと話してみたいってずっと言ってるの」

「なっ!?おまっ!ちょっ…」


僅かに頬を赤くして、慌てふためく昶を余所に、あかねは話を続ける。


「この前会ったばかりだけど、面白くて良いヤツなんだ。山川さんもきっと気軽に話せるよ」

「あかね…!」


あかねの言葉が余程嬉しかったのか、昶は笑みを浮かべて目を輝かせた。

一方で朔姫は何か考える素振りをした後、改めて彼の前に立つと手を差し伸べる口を開いた。


「知っているとは思うけど……山川朔姫です。よろしくね、香住くん」

「お、おう!よろしくな山川さん!」


ぎこちなくも、手を握りあいながら笑い合う二人を見て、あかねは更なる提案を口にする。


「そうだ。折角だから、二人で寄り道でもして帰ったら?」

「はい!?」


驚きに声をあげたのは昶だった。

すると彼はあかねを引っ張り、耳元に顔を近付けて朔姫に聞こえないよう小さな声で、されど早口に話し始める。


「ちょいちょいあかねさん。それはキツい!お前がいるならいいけど、流石にキツい!」

「えーいいじゃない。気になってるんでしょ」

「そうだけど!山川さんと二人きりって展開!この上ない事だけども!」

「ならいいじゃん」

「いやいやいや!男子達が黙ってねぇって!」


頑なに断る昶。

他人に気を遣う彼は、自分の気持ちよりどう周りの反応を気にしているようだった。

自分と相手さえ良ければ、第三者など関係はないはずなのだが。

昶を余所に、朔姫に問い掛ける。

「山川さんはどう?」

「私も特に用事はないし、構わないけど……でも」


気掛かりなことがあるのか、朔姫は少し間を空けて答える。


「寄り道した事なくて…その……どんなことしたり、どこへ行けばいいか分からなくて」


朔姫の発言に、あかねは目を丸くする。

そのような付き合いをする間柄の友達がいないのか、または真面目なだけなのかは分からない。

だが何故か珍しいものを見ているような不思議な感覚だった。


「それは大丈夫。昶いっぱい知ってるから」

「ならいいのだけれど……桜空さんは行かないの?」

「私はアー……ちょっとこの後予定があって。今日は行けないんだ」


アーネストの名前を言いかけたが、内密にという文面を思い出し、素早く言葉を繋げて誤魔化す。


「そうだったの」

「ごめんね。今度一緒に寄り道しよう」


笑顔で言えば、朔姫は嬉しそうに頷いた。

話終わると同時に、クラスメートが何人か愉しげに教室へと戻ってくる。


「じゃあ私、自分の席戻るわ。また後で」


朔姫は自分の席へと戻っていく。

昶は呆然としながら呟いた。


「…これって夢じゃないよな?」

「抓ってあげようか?」


問い掛けるものの、本人の了解なく勝手に頬を抓る。


「いたたたッ!」

「夢じゃないわね」

「そうだな……痛ぇ」

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