期待している



「…確かに君が思っている通り、それは難しい」


顔に出ていたのか、はたまた想定内のことだったのか。

あかねの心情を代弁するジョエル。


「だからこそ、もう一つの方法を君に勧めよう。決して容易な事ではないが、こちらの方が幾分か効率がいいだろう」


紡がれる言葉を静かに待つ。


「無所属の異能者を、オルディネに所属させる事だ」

「無所属の…異能者?」


繰り返すように呟けば、ジョエルは静かに頷いた。


「異能者の人口という観点から、チームに所属している者のはごく僅かだ。チームに所属していない異能者の方が圧倒的多数。一般社会に馴染んでいる者もいれば、その反対も然り。それを強いられ、生き辛さを感じている者もいるだろう。そんな彼らを君が見事に引き入れることが出来れば、自動的に賛成側になるのも道理」

「それは確かにそうだけど。でも誰が異能者とか所属してないとか分からないよ」

「ならば私達を使えばいい」

「え」


ジョエルの提案にあかねは意図が分からず訝しむ。


「君にその気があるなら、協力は惜しまない。幸い、私もアーネストも人脈はそれなりある。まぁ私達に頼らずとも、君には大きな助っ人もいるだろうから必要ないかも知れないが」

「…しろちゃんのこと知ってるの?」

「佐倉司郎のことか?知っているも何も、彼の仕事を理解しているならば、聞くことでもないだろう」

「まぁそうなんだけど」


司郎が所属している調停局調停部はチームの内情を定期的にヒアリングして問題点や悩みに対するアドバイスをしてフォローすることや、彼らが一般人と少しでも理解を深め、彼らとの共存を根本としている部署だ。

ゆえにチームに所属しているジョエルが彼を認知していても何ら不思議はない。


「ん?しろちゃんにリーデルの事、話しても良いの?」

「この件が公になることは好ましくはないが、彼の仕事上、いずれ知ることになるだろうからな。まぁ彼の仕事ぶりを見る限り、信頼に値する人物ではある。加えて恋人の君に求められれば、協力は惜しまないだろう」


その口ぶりから、ジョエルは司郎のことをきちんと評価しているようだった。

何故だか自分のことのように嬉しくなるが、ある言葉に引っかかり口を開く。


「しろちゃんは恋人じゃないよ?」

「親密な仲ではないのか?」

「仲良しだよ。泊まりにいったり遊びに行ったりするし」


司郎のことは大切な存在ではあるが、だからと言って深い仲というわけではない。


「もう一つ聞きたいんだけど、もし私がリーデルになれなかったら――」

「無論、解散だ」


告げられた言葉は短いが、何故か重くのし掛かる。


「そしたら……どうなるの?」

「このオルディネはなくなり、そして私達は異能者としての安全が保証されなくなるだけだが」


あたかも他人事のように話すジョエルだが、それは彼自身にも影響する事ではないのだろうか。


「ジョエルは平気なの?」

「オルディネが無くなる事は心痛い。が、時にそれが致し方ないときもある。私の場合は、身の守り方は熟知しているのでな。個人という観点からは、特に問題はない」


それは強者の考えだ。

最も彼に他人の心配はおろか、自分に害が及ばなければそれでいいのかも知れない。


「いずれにせよ、君の選択によって人生が変わる者がいるというのは事実だ」


責め立てるような言い方をするが、これは反応を試しているだけなのだろう。

愉しげに笑っているのが、何よりの証拠だ。


「………分かった」


結果がどちらに転ぼうと、自分に何かがあるというわけではない。

それでも関わってしまった以上、知ってしまった以上。それらを捨て置く事が出来ないのも事実だった。


「まだ分からないことばかりだけど、私で良いなら出来る限りのことはやってみる」

「期待している」

「困った時は遠慮せずに言って、あかね嬢。可能な限り協力するから」


アーネストの言葉に安堵はするものの、やはり不安は拭えない。


「どちらの方法を取るのか、或いは別の方法を取るかは君次第だ。二ヶ月と期間は短いが、せいぜい頑張ってくれ」

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