私はコーヒーだ
「しかし問題が発生した」
そう言うと同時に、ジョエルは机に置いてあった一枚の用紙を手に取り、あかねに見せる。
そこには“ボク達は新しいリーデル就任に反対します”と手書きで書かれた文面、そしてすぐ下にはジョエル以外のオルディネ所属者の名前が書かれていた。
「オルディネに所属する者の内、私以外の者が君のリーデル就任に反対している。この薄汚い用紙と字を見れば分かると思うが」
「……うん。だと思う」
「ちなみに、そこにいる結祈も反対派だ」
振り返れば、結祈は申し訳なさそうに目を伏せている。
だがそれは仕方ない事だと理解しているので、責める気は毛頭なかった。
「本来ならば、私の独断で決めても問題はないのだがな。しかし現状から鑑みて、内部分裂の可能性も否定できず、もしそうなれば、今度こそオルディネが危うくなる。私としては、穏便に事を運びたいというわけだ」
するとジョエルは、あかねの耳元に顔を寄せる。
「だが私は、何としても君をリーデルしたい。もし君に、少しでもその気があるならば……限られた者達だけで話をしよう」
一瞬耳を疑う。限られた者。
ジョエルを見るが、答える気はないようで、意図は全く読めない。
――既に限られてる気がするんだけど……。
――もしかしてこういうこと?
あかねは自分なりに意図を解釈し、口を開いた。
「結祈」
「何でしょうか?」
不意を突くように呼ぶが、結祈はすかさず応える。
「少し喉が渇いちゃって。ジョエルの話はまだ長そうだし、何か持ってきてくれる?」
申し訳なさそうに言えば、結祈は柔らかな笑顔を零した。
「かしこまりました。紅茶などお持ちしましょう。冷たいものが宜しいでしょうか?」
「んー温かいのがいいかな。出来たら甘いの」
「それならミルクティーをご用意しましょう」
「私はコーヒーだ」
便乗するジョエルに、結祈はあからさまに嫌そうな顔をする。
「貴方には聞いてないのですが。アーネストさんは?」
「あかね嬢と同じので」
「分かりました。それでは失礼します」
結祈は一礼して静かに部屋を出る。
扉が閉まり足音が完全に聞こえなくなったのを合図に、あかねはジョエルに向き直った。
「これでいいの?」
「ああ。聡いようで安心したよ」
ジョエルの指す限られた者達と言うのは、恐らく賛成派の者を指していたようだ。
優しく接してくれる結祈であっても、反対派である事には変わりないのだ。
「では話を続ける。君が食堂から去った後の話し合いで、反対という結果で終わった。とりあえずはな」
「とりあえず?」
「私が一つ条件を出した。このような状況になるのも想定内だったからな」
リーデル不在のオルディネを纏めるジョエルからすれば、彼等の反応も予想通りだろう。
それを見据えたうえで、あの宣言だとしても、何ら可笑しくはない。
「どんな条件?」
「二ヶ月の猶予をやれと。誓約書の提出期限は幸い六月だ。よってその二ヶ月の間に彼等を認めさせる事が出来れば、君は誰にも咎められずに、晴れてリーデルになる事が出来る」
ジョエルは簡単に言ってのけるが、それは至難の業だ。
理由はどうであれ、危機に直面しているオルディネに所属しているのだから、彼等には何らかの目的があり、はたまた強い何か意思を持っているに違いない。
そんな彼らに認められるとは、あかね自身とても思えなかった。
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