全てオルディネの為でしょう
三階 ジョエル自室
「お嬢さんは、無慈悲にも私に休息すら与えることはしないと。年頃の娘とはこうも強引なものなのか」
自室のドアを勢いよく開けたのと同じく、ジョエルの部屋のドアを開ければ、待っていたと言わんばかりに皮肉な物言いと共に迎えられる。
「ごめんなさいね?あなたから聞きたい事がいっぱいあるの」
「説明すると言ったが?結祈にも言伝を頼んでいる」
ジュエルはそう言い放って、あかねの背後に視線を向ける。
後ろにいる結祈を見れば、気まずそうに視線を逸らしていた。
まるで彼だけが責められているような気がして、あかねは自分に視線がいくように歩み寄って距離を縮めて彼を見上げた。
「結祈はちゃんと言ってくれたよ。でも私は待ってられないから。それにこっちから来てあげたんだから、手間は省けたでしょ」
「クックッ……確かにな」
挑発的な笑みと共に、ジョエルは喉を鳴らす。
「食堂での態度と変わって、随分と積極的なお嬢さんだ。私に騙された事を、忘れてはいないだろうに」
「もちろん。あなたが割と酷い人ってことは分かったわ……でも」
「でも?」
ジョエルは訊き返す。
「あなたのしている事は、全てオルディネの為でしょう」
「!」
至近距離だったせいか、サングラスで隠されていたジョエルの瞳が大きく見開いていたのが見えた。
自分の導き出した答えが、間違いではないことをあかねは確信する。
「あなたの事を、私は信用してないわ。騙されたばっかだし。それでもあなたのオルディネを想う気持ちに、嘘偽りは無いとは思う。だから教えて」
透き通る青い瞳で、ジョエルを捉える。
うっすらと見える紫の瞳は、驚きを隠せないままだが、はっきりとこちらを捉えていた。
青と紫の瞳が交差する。
どれほどそうしていたのだろうか。
徐々に耐えきれなくなったジョエルが、とうとう視線を逸らした。
「……小娘如きに一本取られるとはな」
それが精一杯の悪態だったのかも知れない。
「で?ちゃんと答えてくれる?」
そんな事を気にすることもなく、あかねは真意を確かめようと問い質す。
「ああ。元よりそのつもりだ」
頷きながら答える彼の様子から、答える気は本当にあり、食堂の時の言葉が嘘ではないことをあかねは知る。
「まずはリーデルの件だが、未熟ながらも君にはその資質がある。その証拠に、この短時間で後ろの二人を既に手懐けている」
ジョエルは結祈とアーネストを指す。
二人は会ってから、親切に接してくれている。
だがそれは手懐けているわけではない。
「それは少し違うというか……あ、ジョエルがやればいいんじゃないの?問題あるけど、凄い人だって聞いてる」
そう言った瞬間、アーネストが吹き出すように軽く笑っていた気がした。
「ほう?些か気になる発言だが……確かに私でも務まらないこともないだろう。だが性に合ってないのでね。長続きしないさ」
「随分と勝手ね」
「既に聞いているとは思うが、リーデルとは象徴だ。故にそのチームで、最も優れている者がなるのが、自然の流れでもある」
「じゃあどうして?何でジョエルは、私をリーデルにしたいの?」
それが一番の疑問だった。
ジョエルは自分を知っていると言った。
だがあかねは、どうしても彼を思い出すことが出来ない。
たかだかその資質があるというだけで、偽ってまで署名させるだろうか。
そうまでして、自分を推す彼を不思議に思わずにはいられなかった。
「資質があるのもそうだが、純血であることも理由の一つだ。そして何より、純粋に君がいいとも思った。私は誰かの下につくのは好きではない。だがお嬢さんなら、それも悪くはないと思ったまでだ」
「どうしてそこまで……」
「……何故だろうな」
曖昧な言葉を並べて、ジョエルは笑みを浮かべる。
だがその笑みは先ほどのものとは違い、どこか困惑したようにも見えた。
皮肉の一つや二つを言われるのではないかと思っていたせいか、その言葉と表情に驚き目が離せなかった。
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