全然。むしろ最高。そういうの
大徳高校 廊下
「住む場所があったのは良かったけど、何か災難だな」
「ほんとにね」
女子寮の場所は書類でなんとなく覚えていたので、寄り道をした後にのんびりと行くつもりだった。
しかし学校で待機と言われてしまってはどうしようもなく、あかねは靴を履き替え座りながら仕方なく待つことにした。
「いつ来るんだろうな」
「さあ……昶まで待ってなくてもいいよ」
隣に座る昶は、この後バイトがあると言っていたはずだ。
付き合わせるのは悪いと思ったのだが、彼は首を振る。
「いいっていいって。バイトまではまだ時間あるから」
「でも」
「学校つっても、この前みたいなヤツに会うかも知れないだろ」
「あー…」
話題を振られ、ふとこの前の男を思い出す。
上から下まで黒ずくめで、何故か自分の事をよく知っていた。
それだけでも十分に不可解だが、極めつけは自分がその男に何故か既視感を抱いていた事であった。
知らないはずの男に、そんな感情を抱くなど、普通では有り得ない。加えて名前を呟くことすら。
司郎から母と接点があることを聞かされ、それは確かなことであろうが、それでも腑に落ちない。
「……なあ」
昶の呟きに目を向ければ、どこか神妙な面持ちをしていた。
「こんなこと聞くのもあれなんだけどさ……あかねも異能者なんだよな」
「うん。昶もでしょ?」
躊躇わず素直に頷いて聞き返せば、昶黙り込み、瞳が少しだけ揺れ動く。
その反応を見る限り、恐らく触れられて欲しくなかった事なのだろう。
他人と違うだけでそれを異端視し、忌避するのはどんな世界、社会でも存在している。
形成された枠組みから外されないために、その異端と思われる部分に触れず、隠そうとするのは自然のことである。
「ああ。驚いたか?」
「うーん。微妙」
「なんだよそれ」
間を置いた答えと共に、様子を伺う言葉を添える昶だが、返ってきたのは的外れな答えで、思わず苦笑してしまう。
「んー……この前の反応で、なんとなく予想してたというか」
ジョエルと会ったときの明らかな動揺。
その様子から、昶が異能者であることは察することができた。
「まぁ驚いたと言えば、高校生活最初の友達が、異能者だった事かな」
「確かに。オレも思った。すごい偶然だよな」
「ね。ほんと奇遇」
何気ない言葉を交わすうちに、ぎこちなくも笑顔に戻りつつある昶に、あかねは優しく微笑む。
「大丈夫」
「え」
「私は怖がったりしないし、拒絶したりしないよ。友達だからね」
その言葉に昶は目を大きく見開くと、下を向いて少しだけ笑った。
「そっか……ありがとな」
「どういたしまして」
あかねと昶は互いに笑い合う。
異能者として友達として。
そのことで少しだけ、昶の事を理解出来たような気がした。
昶もまた、彼女の言葉に安堵したのか、はたまた心を許したのか、次第に自身の事を話し始めた。
「オレさ……物心ついた時には、もう異能があったんだって。けど家族にも親戚にも異能者なんていないし、突発的なモノだったみたいで母さんや父さんすっげぇ驚いたらしいんだ」
「そっか」
「小さい時は能力を自制出来なくて、よく姉ちゃんや母さんを困らせてた。友達には気味悪がられてハブられて……中学ではそれであんま学校行かなかったりさ。だけど……それでも家族は、オレを見放したりはしなかった」
過去の出来事を思い出しながら話す昶は、どこか遠い目をしていた。
同時に彼にとって家族が、どんな存在であるのか、それとなく分かったような気がした。
「あかねはどうだった?」
「私?」
「友達付き合いとか苦労しなかったか?」
不安そうに聞いてくる昶に、あかねは何だか申し訳ない気持ちで口を開く。
「私はあまり…というか、異能者であることに悩んだことはないかな。元々異能者の家系だから、それが当たり前というか……昶ほど苦労はしてなかったよ」
過去を振り返ってみても、異能者だからと友人関係で苦労した事はない。
もっともただの異能者ではない純血であるという特異な部分において、悩みがないわけではないが。
そもそも昶と出会うまで家族とごく僅かの親しい者達以外の異能者に会った事はほとんどない。
また一般人との交流もそれなりにあったが、その中で自分の存在を忌避され、拒絶されたことなどは一度もなかった。
ゆえに自身が他人と少し違う個性があるというほどの認識しか持ち合わせていないわけであるが。
加えてあかねは異能者ではあるものの、その能力を使った事など数える程しかなく、むしろその能力が何なのかさえ、自分ではあやふやなのである。
「それに何というか……私、あまり能力使った事なくて」
「そうなのか。あかねは異能のコントロールがちゃんと出来てるんだな」
「うーんと……」
そういうわけではない。と言いたいわけだが言い出せず。
歯切れの悪い言葉に気付くこともなく、昶は話を続ける。
「昔会った異能者に聞いたことあんだけど、どんな能力でも、若い異能者って不安定なんだって。だから無意識の内に能力を発動したり、必要以上に使ったりするんだってさ」
「そう…」
初耳だった。
そんな事を知っているのは、きっと昶自身が能力を持っていた事で苦しみ、それでも逃げずに向き合おうとして、自分なりに努力してきたから結果なのだろう。
それに比べて異能者の事、更には自分の事さえろくに知らないと、あかねは自らの無知さに密かに痛感する。
「とにかくオレはさ、母さん達が見捨てなかったように、自分も向き合って生きていきたいんだ。……変?」
「全然。むしろ最高。そういうの」
「ははっ!そう言われると照れる」
軽く頭を掻く昶。
「つか、何かしんみりしちまったな」
「いいよ。昶のこと結構知れたし」
場の雰囲気よりも、相手を深く知る事の方が重要な時などいくらでもある。
「そっか。やっぱあかねは良いダチだな!オレ感激した!」
「ありがとー」
「あ!本気にしてないだろ!」
「いえいえー?」
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