貴女様をお迎えに上がりました

冗談を言いながら、笑ってはふざけ合う。

周囲には自分達しかいない所為か、やけに声が響いている。

ふと目線を上げると、自分達と大して変わらない少年の姿が目に入る。

しかし何故か制服を来ておらず、燕尾服のような格好に身を纏っていた。

目が合った瞬間、少年は驚いたような顔をしたが、すぐに笑みを浮かべてこちらに向かって一礼する。

それに応えるように、あかねもまた頭を軽く下げる。それに気付いた昶は、少年の方を見ると不思議そうに呟いた。


「誰?めっちゃ美少年」

「さぁ……」


興味津々の昶を余所に、あかねは歩み寄ってくるその少年について考える。

短い赤茶髪に中性的な整った顔立ち。

昶の言う通り美少年と言っても強ち間違っていない。

見るだけでも強烈に印象に残りそうなのに、自分の中に記憶がないとなると、やはり初めて見る顔なのだろう。


「ご談笑の中、失礼致します。貴女様が桜空あかね様ですか?」

「あ、はい……そうですけど」


流れるように紡がれた丁寧な言葉遣いと共に尋ねられ、あかねは戸惑いを隠せずぎこちなく返事を返す。


「遅くなりまして、申し訳ありません。私は結祈と申します」

「はぁ……どうも」


唐突なことに、曖昧な返事しか返せないが、結祈と名乗る少年は言葉を続ける。


「貴女様をお迎えに上がりました」


迎えと言う言葉を聞いて、あかねは声を上げる。


「ああ!もしかして、直江先生の言ってたお迎えの方ですか?」

「はい。左様でございます」

「良かったなあかね!迎えが思ってたより早く来て!変なヤツでもないし!」


陽気な声で言うと、昶は靴を履き替え、荷物を持つ。


「んじゃオレ行くわ」

「ありがとね」

「おう!また明日な!」


手を振って走り去る昶を見送る。

あかねも立ち上がろうと、鞄に手をかけようとするが、置いたはずの場所に鞄が無かった。


「あれ?」


思わず辺りを見回せば、鞄は結祈の手に渡っていた。


「……あの」

「はい」

「鞄くらい自分で持ちますから」


そう言えば、結祈はただ首を横に振る。


「いえ、これもお役目ですので」


お役目とは一体何なのか疑問だったが、聞いてもいいことだろうか。

だが知り合ったばかりの人に、荷物を持たせるのはとても気が引ける。

仕方なくあかねは結祈から鞄を取る。


「出来る事は自分でしますから、お気遣いなく」


はっきり言い切ると、結祈は不満そうな顔するどころか一瞬目を丸くして微笑む。


「かしこまりました。では参りましょうか」

「お願いします」


先を歩いていく結祈の後に続いて、校門を出て駅周辺の繁華街へと向かう。

昼間だからか人が多く煩わしい印象もあるが、見慣れた景色を眺めるのも悪くないとあかねはそう思った。


「黎明館は、東口から徒歩10分ぐらいのところにあります」

「黎明館?」

「はい。今日から貴女様が住む三階建ての洋館の名前です」


三階建ての洋館。聞く限りでは随分な豪邸という印象だが、ルームシェアのようなものなら、それくらいの規模でも不思議ない。


「他にも誰か住んでいるんですか?」

「はい。自分を含め五名ですが、現在滞在している方がいますので計六名ですね」


思っていたよりも多い人数で、あかねの中に期待と不安が押し寄せる。


「皆さんとても良い方達です。貴女様が来るのを楽しみにしていましたから」

「そうなんだ!良かった……」


表情を読み取ってか、結祈はそう笑顔で答える。

歓迎されていると分かり、あかねは少しだけ安堵する。

それにより余裕が出来たのか、先程から感じていた疑問を聞いてみる事にした。


「あの、結祈さん」

「結祈でいいですよ。皆さんそう呼んでますから」


気軽に言うものの、知り合ったばかりの人を名指しで呼ぶのは難しい。


「えーと……結祈くん?聞きたい事があるんですが」

「はい。何でしょうか?」

「その……何で敬語なの?」

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