人の話は最後まで聞こうね


クラスメート全員の自己紹介が終わり、担任からの話や連絡事項を聞いて、ホームルームを終えた。

生徒達は早々に教室を出たり、教室で話したりと、自由に散り散りになっていく。

あかねは自分の荷物をまとめると、昶の元へと向かう。

彼は鞄から教科書を取り出して、早速机の中に入れていた。


「初日から置き勉とかどうなの」

「明日から授業あるじゃん。あかねはしない派?」

「するけど」

「だよなぁ。このあとどうする?寄り道する?」

「だね。昶は?」

「オレはバイト」

「もう?なんのバイト?」

「レストランの接客」

「いいじゃん。私もバイトしようかなぁ」

「うちのレストラン募集してるぜ」


話しながら軽くなったバッグを片手に、教室を後にしようと歩き出す昶。

それに続いてあかねも歩き出すと、突然後ろから声を掛けられる。


「桜空さんだよね?」

「え……うん」


そこに立っていたのは、名前はまだ覚えてられていないが、クラスメートの女子だった。


「合ってて良かった。先生が寮の事で話があるから、職員室に来てって」

「わかった。ありがとう」


お礼を言うとその女子は、笑顔でこれからよろしくね。と言い残して教室を出て行った。



「初日から呼び出しってのはどんなもんよ」

「あんま良い気分じゃない」

「だよな。ま、オレも行くから安心しなって」


昶はあかねの背中を軽く叩いて、再び歩き出した。


「あ……しろちゃんに電話」


携帯を取り出して開くと、着信と留守電が届いていた。

留守電を聞くと、入学を祝うの言葉と急な呼び出しで局に行くと、短い一言が書かれていた。

了解。ありがとう。また連絡するね。とメッセージを返して携帯を閉じた。


「あかねー!早く行こうぜ」

「うん」


呼び声に応えるように、再び歩き出した。

数分後。職員室へ辿り着くと穏やかな面持ちをした担任の直江が待っていた。


「桜空さん、来てくれてありがとう。教室で話そうかとも思ったんだけど、こっちの方が良いかなって」

「大丈夫ですよ。寮のことって聞きました」

「そうそう。実はね…」


直江は困ったような表情を浮かべる。

どうやら手違いで女子寮は満室になってしまい、寮に行っても自分の部屋がないという衝撃の事実を知らされる。


「つまりこういうことですか。私は何者かに住むはずだった部屋を横取りされて、野宿になってしまったと」

「いや、ちょっと……だいぶ………ちがうよ?」

「あ、荷物はどうなったんですか。ハッ……まさか荷物も横取り?」

「人の話は最後まで聞こうね」


そう言うので話を聞くと、直江が懇意にしている知り合いの家に住む事になったということだった。

荷物は既にそちらに送られており、迎えが来るので、学校で待っていて欲しいと言う事だった。


「知り合い……」

「先生も前に住んでたところなんだけど、ルームシェア的な感じでね。見た目は古いけど中は広いし割と嫌いだから安心して」

「はぁ……ありがとうございます」


腑に落ちないまま、あかねは礼を述べて職員室を後にした。

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