おう!人事だな!
それから二人は階段を上がり、教室へと続く廊下を一番奥まで歩いて昶は歩みを止める。
上を見れば1-3と書かれたプレートがあり、あかねはここが自分のクラスである事を確認する。
ドアは既に開いており、教室を見渡せば、多くの生徒達が既に座って、近くの席のクラスメートと話したりしていた。
どうにか規定の時間内には来れたものの、自分は周りと比べ遅い方だったと自覚する。
窓側の列に視線を移すと、一番後ろの席が空いていた。
「あそこ?」
確かに何をしても、都合の良い位置ではあった。
「そう。羨ましいぜホント」
「すぐ席替えあるかもよ」
「むしろあってくれ。オレはそれに賭ける!」
自分から言ったもののまだ有りもしない事に、今から勢い立ってる昶を横目に、あかねは自分の席に座る。
「頑張ってね」
「おう!人事だな!」
そう言って昶は窓際に、寄りかかる。
「オレはお前の前後か隣がいいんだよ」
「そうなの?何で?」
あかねは不思議そうに問い掛ける。
「何でって……友達なんだし当たり前だろ!」
「当たり前なの?」
「友達ってそういうもんだろ?」
そう言われてしまえばそうなのかも知れない。
――でもそれって、なんだか……。
「お前がどう思っても、オレは隣がいいんだよ!授業も退屈しないし、教科書忘れた時も借りやすいしさ!」
「あーね」
それからもあかねと昶は他愛のない話をしていたが、すぐに担任らしき人物が来て全員廊下に出され、二列に並んで体育館に誘導される。
「入学式かぁ……オレ、寝ちゃうかもな」
「寝そうだね」
「オレってそんな感じ?」
「そんな感じ」
体育館へ移動した後。
長くなると予想していた入学式は、あっけない程簡単に終わる。
それから新入生達はそれぞれのクラスに戻ってHRを行っていた。
「桜空あかねです。とりあえず、よろしくお願いします」
はじめは一人ずつの自己紹介だった。
名前と軽い挨拶だけの味気ないものなので、クラスメート達からの反応は当然ない。
中には視線をこちらに向けるクラスメートもいたが、関心はあまり高くないだろう。
「香住昶ッス!ちょい前から寮に住んでます!気軽に声掛けてな!あと彼女募集中!よろしく!」
冗談混じりの紹介が、前から聞こえ思わず微笑む。
それに気付いた昶は、あかねに向かってピースをする。
その後は彼と同じく冗談混じりの自己紹介をしたり、自分と同じく名前だけで終わらせたり、中には恥ずかしながらも、一生懸命話す者など様々だった。
一通り聞いていたあかねは、その中で山川朔姫という少女に目が止まった。
自分程ではないにしろ高校生にしてはやや小柄で、日本人離れした顔立ちの美少女だった。
金髪にも似た色素の薄い茶髪を一つに束ね、その凜とした佇まいは目を引かれるものの、どこか人を寄せ付けない雰囲気もあり、まるで朝日を浴びても冷たい氷を思わせた。
「山川朔姫です。よろしくお願いします」
はっきりとした声で告げた彼女は、容姿を含めてクラスの中で一番浮いているだろう。
教室というこの空間を、一番見渡せる場所でそう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます