1話 帰り道

高校一年の夏休み。

この言葉は何を意味し、どのようなものかわかるだろうか。楽園だ。

去年を思い出してみればそれは足から伝わり、胸に刺さる...



塾多ない?あれ、なぁ?大島!

聞いてんのか?塾長の大島だよゴラァ

あいつは許さん、まじで


つまり、遊べない夏休みが遊べる夏休み変わったのだ!


だがしかし、退屈極まった。

なんか部活入るんだったか...

まぁ大変よりはマシであろうか...

つまらない夏休みは簡単に終わりを告げた。


「あー始まったー」


二学期初日


「夏休み早くない?」


「本当〜あと三は欲しいな」


手で三つ指を立て山Pこと山下は言った。


「三日!?そんなんでいいの?もうちょい欲張りなよー」


「三年だよ」


山下と高岡は夏休みが終わったという現状に不満があるらしい。


「田沼何してたー?」



「え、別になんも」


我、田沼夢飛たぬまゆめとには用事なんて一つもないのだよ。

友達がいないわけではないが、カラオケなどでの人数埋めの時に初めてLINEのアイコンをタッチ!みたいな枠の人間であると理解している。ぅん。泣きそう。


ガラガラガラ

先生はスキップしながら入場して来た。今日も可愛い。

元気をもらえる!


「ホームルーム!はっじめーるよー!!」


ウォーーーー!!


心で叫ぶ。

説明しよう。

突如俺の大好きなアイドルグループ

『とぅとぅとぅとぅるーらぶぅ』

通称『つつつ』のメンバー、ヨシポム逮捕をきっかけに解散。

当時は二週間学校を休んだ。なんとか立ち直り高校へ進学、しかし推しだったアキミンこと与島明子よしまあきこ様が担任をなさるなんて誰が予想したか...

最近は慣れたのだが、緊張で二週間学校を休んだよ♡

てかよく教師なれたな...



「はーい!この夏限定の転校生がなんと!このクラスに!お求め安い価格で手に入りましたー!」


可愛いの一言に限る。

ちなみに気持ちを伝えたがめっちゃ苦笑いで「あ、ありがと」って言われましたっ。ははっ

いや転校生の出し方がジャパネッ

「それでは早速!とうじょーしていただきまーしょー!どぞ!」


ガラガラガラガラ



メガネの彼女の長い髪が揺れに揺れる。


小さな歩幅で先生の隣につき、恥ずかしそうにこちらを向いた。



「さ、坂道翼さかみちつばさです...」


「よろしくお願いします」


小さな身体から出ると思われる声の5倍は小さな声だなぁ...



ん?あれ?


き、昨日まで隣に座ってた園ヶ島沢そのがしまざわミシェルがいないーー


「新しい仲間よー。みんな仲良くねー。つことで...あのキモオタの隣空いてるからそこな、座れ。」


あーそう。

あの日から先生は俺をキモオタと呼ぶようになったよ。

ふー頑張れ俺!


ミシェルどこいった?などと考えていたらあっという間に放課後になっていた。


疲れているのだろうか。いつから寝ていたのか分からない。帰ろうとカバンを手にした時には教室はからだった。


「ん?あれって...」


転校生だ。確か名前は...坂道さん?

彼女は廊下に貼ってある部活のポスターを見ているようだ。


なんか言うべき?じゃないよな...


静かな廊下を歩き、彼女を横目に階段を降りた。


「あ、あのっ」


「は、はいー」


なんかビックリして変な声出た。


「え、あ、なん、なんでしょうか」


「その、そ、その部活って!誰でも入れるんですか?」


いきなり女子と話すスキルねーよー

くれよー。ジャスティンわけてくんねぇかなー。


「たぶん入れますよ...はい」


「ず、ずっと見てたんですか?ポスター。」


「あ、いや...」

「そ、それじゃぁ」


タッタッタッタよりピューンの方が正しいスピードで去ってった。


あぁ女性との会話はHP削られるぅー

俺も帰ろ。


「あっあのっ」


今度は何!と振り返って見たらそこにはジィさんがいた。


「うぁ!うぇ?!」


腰が抜けたの五文字では収まらんぐらいビビった。

いや、なに?


「いや君ワシに願ったろぅ?」


はぁ

いやぁ...すっかり


「え?どなたですか?」


足が震えすぎて発電できそう(?)


「神様じゃぞ。忘れたのか?まさかー、じゃあお主はAmazonで頼んだ物を忘れたりすんのか?え?」


「んっ!あ!あの...軒下にいた?」

「いない」


「歩道橋の下?」

「ちがう」


「ちょっと分からないです」


呆れたような顔をしたジィさんはため息をついて俺に近づきこう言った。


「翼はつばさ単体では飛べないんじゃ。わかるな?翼とわかり合い、翼を信じる人がいなければ飛ぶことはできない...頼んだぞ」


そう言いジィさんは階段へ消えてった。


「あ。一学期最後の日の帰り道...神様って名乗ってた人、いたな。」


ずっと俺は全てがどうでもよいと思っている。すぎる毎日、つまらない毎日、なにもしない毎日。平凡や普通を好む人間は腐るほどいるが、俺はそれが一番の苦であると思う。きっとこれからも一緒のことであると思う。だからその苦痛が始まった日から俺は現実から離れられる物が、人が、欲しかった。


「翼をください...」


飛んだら変われるだろうか。

失わなかったら楽しかっただろうか。

失われなかったあの日までは苦じゃなかったのだろうか。

そんなことを思った俺は別に前から欲しかったわけでも、一度も空に飛んでみたいとも思わなかったのにとっさに出てしまった。


「いかん、いかん。」


帰ろう。今日はいつもの帰り道とは別の道を。


つづく

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翼をください。 山谷さん&りるん @TAka0525

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