ちと手を広げすぎた、少し初心に戻るべきかな
さて、弾左衛門が処刑されて穢多非人とそれ以外の芸人や医者、手習いや芸事の師匠のような身分外の者に対しての権限は分割されたわけで、俺は芸人や医者、手習いの師匠などに関しての評判や生活の改善に努めてきた。
「しかし、俺がそもそもこの時代の吉原に来たのはもともとは吉原弁財天様に言われて、吉原の遊女を救うためだったはずだしそろそろ初心に立ち返るべきか」
全体としての吉原の遊女の立場や生活は、本来よりも随分改善されているはずだがな。
「まずは見世の位と合わない遊女の移動を、できやすくしたほうがいい気がするな」
湯女出身なのに格子太夫まで上り詰めた勝山のような例外もあるが基本的に、湯女や茶屋女が大見世に入れるようなことはほぼ無い。
逆に大見世に禿としてはいったものの、新造のような下っ端のままで終わっちまうやつもいる。
「21世紀でもそういう店と合わない風俗嬢は大変だったもんな」
90年代位まではそもそも風俗嬢のなり手や業種がごく限られていたので容姿があまり良くなくても稼げるのが普通だったが、風俗などの敷居が下がりAVの普及に伴ってAV女優のレベルが上っていくと風俗嬢もかなり良い外見などを求められるようになっていったが、激安の店に可愛い子がいたり、逆にそこそこ高い店にかわいくない女の子がいたりすることもままあった。
激安店の可愛い子の方は仕事はバッチリ入るからまだそれなりに稼げるが、その逆は指名用写真で選ばれないからかなり悲惨だった。
「総会で他の遊郭の楼主たちと話してみるか」
というわけで各町の代表などに加えて今回は中見世や小見世の楼主も代表を選ばせて総会を開いた。
「今日は忙しいところ集まってもらってすまねえな。
で、集まってもらったのは聞きたいことがあるからだが、特に大見世で女衒から買ったはいいが思ったほど伸びなくて客の取れない遊女なんかは、本人の意志があれば中見世とかに移動しやすくしたほうが見世にとっても本人にもいいと思うんだがどうだろうか?」
俺の言葉に三浦屋が頷いた。
「たしかにな。
これと見込んで小さな娘を買ってみても思う通りに育っちゃくれないもんだし、客がろくにつかねえやつを食わせようとするより、中見世なんかに移動しやすくしてやったほうがいいかもしれねえな」
三浦屋が賛同すると他の大見世の連中も頷いた、まあある意味売れない遊女は不良在庫みたいなもんだから移動できるようにしてやったほうが双方のためだと思う。
「あと、大見世どうし、中見世どうし、小見世どうしでの遊女の移動もやりやすくしたい」
俺がそう言うと玉屋が苦笑いを浮かべた。
「おれんとこの二人がお前さんとこに行ったら売れっ子になった例があるからか」
「まあそんなとこだ」
実際21世紀の風俗でも店長などのやり方に馴染めないで売れてなかった風俗嬢が、店を移動することで売れるような例も結構あるし、店長が変わって急激に稼げなくなってやめてしまうこともあった。
結構こういう相性と言うのは大事なんだ。
「まあ、それもいいと思うぜ」
そう三浦屋が言うと他の連中もうなずく。
「逆に中見世とかで売れてるやつを大見世にあげてやるのはやっぱ難しいかな?」
俺がそうきくと中見世の代表一人が深く頷いた。
「そりゃそうだろう、せっかく育てた売れっ子をなんであんたら大見世にやらなきゃならん」
「まあ、そうだよな」
現代の風俗嬢は店が育てるわけではなく学校で教育を受けているし教養やら芸事も必要ないから講習で教えることも大したことはないので、風俗嬢は稼げないと思ったら突然来なくなっていつの間にか他の店にいたりすることも少なくないし、大衆店から高級店に移動するのも自由だ。
まあ大衆店でトップを取れても高級店では通用しなくて、結局稼げないから大衆店へ戻ってくることのほうが多いけどな。
「じゃあ中見世や小見世は身受けや年季明けやらで遊女の部屋の枠が空いたらなるべく早く届け出てくれ、大見世の方から新造なんかを引き取ってもらえねえかそこから早めに打診したい」
「それなら構わんな」
「新しく禿を買い入れて育てるよりは確実だしな」
まあそんな感じで大見世の売れない遊女を中見世や小見世の枠が空いたら受け入れてもらうことを話し合いで決めそれは品川でも話し合って同様にした。
「禿を学校で教育するようにしたらこれも更に変えていけるといいんだがな」
上から下や横での移動はできても下から上の移動は難しい状況だが、小見世の娘に生まれたからと、小見世の遊女にならないといけないというのもどうかと思うしな。
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