切見世女郎の全体的な救済も考えないとな

 さて、大見世からの中見世や小見世への見世替えを少し自由にさせたら、いくつかの大見世から売れずに新造から昇格できなかった遊女が中見世や小見世へ見世替えされたようだ。


「まあ大見世で通用しなくても中見世や小見世なら、元大見世の遊女っていう箔付けがあればある程度は稼げるんじゃねえかな。

 最終的には当人の努力次第だとは思うけど」


 残念だが世の中のことは努力すればなんとかなるばかりではなく、いくら努力してもどうにもならないこともままある。


「問題は切見世女郎だよな……」


 切見世の女郎は25歳以上の年増女か見た目が、よほど悪いかのどちらかだから、どうしてもきつい。


 いくら性的サービスを頑張っても、やはり顔の良さには勝てないことはままあるのが風俗だ。


「一応女が働ける色々な職場を作っては来てみたけどなぁ」


 美人楼・万国食堂・花鳥茶屋・吉原旅籠・吉原温泉・吉原工場・吉原学校などである程度働ける者を集めたり、総会の秘書として雇ったりもしている。


 針子や太夫の衣装を綺麗に仕立て上げる御物師なども雇っているが、それでも切見世女郎をなんとかできるほどの数の雇用は作れてない。


 工場では木工の手伝いに羊毛や木綿の糸作りや機織りなどもしているけどな。


「女は物売りを基本はできないのがきついんだよな」


 棒手振りは基本仕事がない若い男が優先されるが、女が売れるのは基本的に衣装に関する糊や針、鋏だけで、あとは夏場だけ鮎や枝豆などを売るものもいるが、ほとんどの物を売ってまわることを女は許されていないのだ。


 ちなみに余談だが江戸では茹でた若い大豆を枝つきのまま売るので「枝豆」と呼ばれている。


「損料屋でもはじめてみるか?」


 損料屋は、質屋と家具、衣服などのレンタル業をあわせたような店。


 長屋に引っ越して来たときには、近所の損料屋を大家から紹介されるが、生活に必要な敷き布団や鍋や釜といった調理道具、礼服やふんどし、草履や下駄などの履物から、風呂敷、手ぬぐいまで、なんでも借りられるが、「ふんどし」のレンタルは人気で吉原に入るときだけ借りて終わったら返すなどという場合も結構あったし、銭湯の脱衣所での盗品のナンバーワンが褌だったくらいで、盗まれないように褌を頭の上に乗せて手ぬぐいで縛り付けて入るやつもいるくらいだったりする。


 六尺ふんどしは高価で半数は持ってないが、本来は履くのが当然とされるから、ふんどしをしないで吉原に来るのは冷やかしくらいな上に、男は自分で洗濯などしたくないということで使ったものをそのまま返されるから洗濯をする人間が必要になるしな。


「とりあえずふんどしだけじゃなく新品っぽい衣服もレンタルできるようにするか」


 この時代に町人やあまり金のない侍は古着を着ていることが多いが、遊女と遊ぶ時は見栄を張りたいのが男心ってやつだ。


 というわけで大門前にあらたに損料屋を構えて吉原で遊ぶときのために衣服やふんどしの貸し出しサービスをして、それそのものに携わるもの、洗濯をするもの、火熨斗というアイロンのようなものでシワを伸ばすものなどをそれなりの数を雇い入れた。


「まだまだだが少しずつ客が増えているのはいいことだよな」


 客の方も吉原の近くで借りて返すほうが面倒でないということか結構利用されたぜ。

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