食費を抑えるためにもおからの有効利用を考えよう

 さて、禿の読み書き算術を教えてもらうために、浪人のお絹の父親を雇ってみたが、これはなかなか良さげだ。


「なんだかんだで同性には厳しく、異性には甘くなるのが人情ってもんだからな」


 先輩遊女の教え方はかなり厳しいところがあったようだが、年をとったうえに浪人として苦労したこともあって、彼の教え方は非常に優しくて禿にはありがたいらしい。


 それはおいておいて人を増やせばそれだけ金銭がかかるし、しめるべきところはしめないとな。


「と、言っても食費はなるべく削りたくねえしな」


 人間なにかにかかる費用を削ろうとして、一番最初にやるのはたいてい食費だから、俺が目覚めた頃の遊女の食事はそりゃひどいもんだった。


 今ではだいぶ改善してるが、その分食費がかなりかかってるのも事実。


「安くて栄養豊富な食材がありゃいいんだが……」


 などと考えていたら、店に豆腐売がやってきた。


「三河屋さん、今日の味噌汁に豆腐はいかがですか」


「おう、そいつはいいな。

 貰おうか」


「ヘイ毎度あり」


 この頃の農村では豆腐の製造が禁止されていて、なかなか口に入れられないものだったが都市部ではそれなりに豆腐屋もある。


 江戸は寺院も多いしな。


「そういや、お前さんのところではおからはどうしてるんだ」


 俺がそうきくと彼は苦笑いしながら言った。


「どうしてるも何も捨ててますよ?」


「ああ、おからはほおっておくとすぐ腐っちまうからか」


「ええ、そうなんですよ」


 おからは大豆から豆乳を搾った後のカスで、からというのは絞りカスという意味。


 その値段についてもごく安価で、豆腐屋が無料で周囲に住人に分け与えたり、捨てたりすることも多い。


 また”スルメ”を”アタリメ”と言い換えるように”から”という言葉は縁起が悪いので江戸では卯の花と呼ばれることがおおい。


 そして特に夏などは2時間もしたら腐ってしまうほど痛むのが早い。


 これは現代でもあまり変わらず、卯の花の白あえにしたり、家畜の飼料としたりされる以外は生ゴミとして、ほとんどが廃棄されている。


 しかし、おから自体はタンパク質や食物繊維を多く含み、脳の記憶力を高めるホスファチジルコリンというものも含まれていたりするので、ただ棄てるのはもったいない。


「今は寒いしすぐには腐らんだろうから、おからも持ってきてくれるか?」


「へえ、そいつは構いませんぜ」


 というわけで今日は豆腐屋から豆腐を買ったついでにおからも手に入れた。


「とりあえず腐りにくくするために乾煎りして水分を抜くか」


 おからは即座に食べるのでなければ鍋でから炒りして薄く伸ばし、氷室で保存する方が傷みにくくなって一日くらいならこれで保つようになる。


「おからの粉で揚げ餅でも作ってみるか」


 おからと言えばクッキーやドーナッツ、ハンバーグというのが有名だが、揚げ餅風にすることもできる。


 おからに豆腐と片栗粉を混ぜてよくこねて油であげて、酒と醤油と砂糖を混ぜたタレをかける。


「味見してみるか、うんうまいな」


 おからは混ぜるものによって餅風にもなるし、鶏肉や豚肉風にもできるのでうまく使えば意外と侮れんのだ。


 もちろん、油揚げ、椎茸、ヒジキなどの材料を混ぜて出汁と調味料を振って炒ってから甘めに煮付ける炒り卯の花もうまい。


「おからと言えばやっぱこれだよな」


 そして定番のおからクッキーも作ってみた。


「ちょっと小腹がすいたときとかにいいかなこれ」


 そして本日の献立はおからと豆腐がメインとなってしまった。


「わっちは体臭が強くならないように肉をなるべく食わんようにしてますからええですな」


 藤乃とかはそう言ってくれたが、やっぱ豆腐やおから料理ばっかしってのもアレだな。


 魚とか肉の旨味がやっぱり恋しくなっちまう。

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