禿の読み書き算術の師匠に浪人のお絹の父親を雇ってみたよ
さて、医者について試験を行い許可制にして、実際に診察や治療を行うために必要なレベルの知識や技術を持たないものは医者を名乗れないようにした。
診ても治らないヤブ医者なら遠からずのうちには廃業するだろうが、突然食えなくなるのは困るだろうから希望のものは養生院で見習いとして働き、最低限衣食住に困らない程度の銭は支給することにした。
「ま、これで本気で医者になりたいけど伝が、なくて医者に師事できないやつとかはなんとかなんだろ」
ただ医者を名乗りたいだけで、技術も知識も覚えようとしない向上心のない奴に関しては俺はしらん。
「働かざる者食うべからずってな」
俺なんかは一見すると遊女に働かせるだけで何もしないで大金がガッポガッポはいってくるんだから気楽だとか思われるかもしれないが、そんじょそこらの商人よりはよほど働いてると思うぜ。
「まあそれはそれとして職にあぶれてる男についてもそろそろなんか考えるか」
もっともこの時代におけるこの時期は明暦の大火後の江戸の街の拡張工事などが常にあちこちで行われてるから、日傭取り人足として要するに一日契約や数日間、数ヶ月間の短期契約の現場労働者として働くのは難しくないし、棒手振りの行商人になるのも難しくない。
ただそういう単純労働でないものになるとやはり難しくなる。
商家や武家への奉公に出るにしても紹介状などは必要だし、この時代は身分制度がきっちりしているからこそ、浪人などは再就職が難しかったりもするしな。
一応、町奉行所や勘定奉行所の管轄地域拡大に伴っての増員は水戸の若様に話してるんで、それに関しての根回しはしてくれてると思うが、人が増えれば相対的に権限が減ると思う現在の与力などが反対するかもしれないしどうなるかは俺もわからん。
武士に憧れるものもいるが、武士の生活もピンきりだし、浪人は名字帯刀ができる以外は庶民と変わらないし、むしろプライドや出自が邪魔して職探しが難しかったりもする。
浪人というと貧乏で剣の腕を磨いてもその腕を持て余していて、ちょっとしたことで乱暴を働く無頼浪人が多いように思われていそうだし、この時代までに関して言えばそのイメージもそこまで離れていない場合も多い。
まだ島原の乱の討伐に加わったものが父だとか言う世代も多いんで、戦国の気風がぎりぎり残っていたりするしな。
だが実際には善良でおとなしい浪人の方が多いんだけど。
この時代余計なトラブルを起こすとそれだけで仕官の道が失われる可能性が高いし、斬り捨て御免の権限は実際はそこまでゆるくはない。
剣術の道場主などは特定の武家に仕官していなければ大抵は浪人が行ってるし、松尾芭蕉や近松門左衛門、平賀源内などの有名な人物が浪人という場合もあるが、これはある程度知識を学ぶ機会があるというのが大きいのだろう。
寺子屋の師匠もこの時代は浪人が結構多い。
「禿の教育の読み書きなどの教養に関しての師匠になりたいやつを募ってみるか」
現状では先輩遊女がそういったことも教えるのが普通だが、三味線や踊りなどの芸事に比べて教養に関してはわざわざ遊女にやらせなければならない理由は薄い気がする。
「浪人の娘のお絹なんかの父親が教養の師匠ができそうならやらせてみるか」
というわけで俺はお絹に話をしてみることにした。
「お前さんのお親父さんお調子はどうだ?」
「はい、養生院で診てもらっったおかげで、今ではすっかりよくなりました」
「そいつは良かった。
それで一つ話があるんだが」
「はい、どのようなお話でしょうか?」
「お前さんの親父さんがもしよければだが、禿の読み書きや九九算術を教える師匠をやってもらえねえかなと思ってな。
一度話をしてくれねえかな」
「それは願ってもないことだと思います。
ですが一度父に話を聞いて確認をしてきますね」
「ああ、頼むな」
そして翌日。
「父は喜んで引き受けるとのことです」
「ああ、そいつは良かった。
ならここまで連れてきてくれるか」
「わかりました」
お絹が連れてきた彼女の父は40後半くらいだろうか、この時代だと40歳を過ぎたら老人だから年老いたなんて言われるわけだが、まだまだ元気な世代だ。
「この度はそちら様の娘さん方の教育に取り立てていただけるということでありがたいことです」
「ああ、ぜひともよろしくお願いしたい」
「こちらこそしっかり働かせていただきましょう」
武士は支配階級だなんてえばっていても、浪人になって仕える先がなくて金を稼ぐのに苦労すれば腰も低くなるよな。
早速通いで禿たちに読み書き算術を教えてもらうことにしたが、いっそ吉原の中に学校の様なものを作って、基礎的な読み書き算術や基礎的な体力づくりなどをそこでまとめて教えてもらうのもいいかもな。
古典文学に精通してればそれを教えてもらうのもいいかもしれない。
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