前のエピソード――動物園的に見世物としても扱うが卵と肉を得るためにも品川でダチョウの飼育を試みてみるか

　さて、品川のダチョウ牧場はなんだかんだで子供にも大人にもそれなりに人気なようでよかった。

　ダチョウは触られることにストレスとかを感じるタイプでもないようなので、触ったりしても弱らないのもいいな。

「さてそろそろ医者についてもちゃんと、登録免許制度にしていかないとな」

　明治以降に医者になるには免許が必要になったが、それでもヤブ医者が少なくなかった。

　この江戸時代だと朝廷に仕える朝廷医、幕府に仕える奥医、藩所属の藩医などは基本的には世襲で技術や知識を継承されていくのだが、後々には奥医師になるには幕府が作った医学館に入って学び、その試験に合格しないとなれなくなる。

　ただしこれらの医師には世間的に名医と呼ばれるものが呼び出されることも多い。

　町民相手の町医者になるには特に許可とか試験はなく、実際に医術や薬草などの知識や技術があろうとなかろうと医者になろうと思えば誰でもなることができたが、まあこの時代の医者というのはそれだけ玉石混交で全体的には医術というものは信頼されていなかった。

　特にこの時代は伝染病に対して医者はほとんど無力だったしな。

　医者は身分外であるために武士でもないにもかかわらず名字帯刀や許可を受ければ籠に乗ることが許されているが、これはいざという時に武士の屋敷に入れるようにという理由。

　ちなみに籠は誰でも乗れるわけではなく奉行より籠に乗ることを許されたものだけが乗物医者となり、そうでないものは徒歩医者として歩いて往診に行く。

　江戸時代の医者の多くが剃髪しているが、これはもともと僧侶がその知識を生かして、医者をやっていた名残らしく、服装に関する規定はないが基本的には十徳（じっとく）と呼ばれる服を着ているが、これは将軍の駕輿丁（かよちょう）、儒学者、絵師、茶道の宗匠のやはり身分外とされた者たちなどが用いた。

　武士に憧れて名字帯刀の特権だけを目当てに医者になる者もいたようだが、その場合、評判はとても大事で腕のいい医者には患者が集まり、腕の悪い医者だと誰も来ないため、結局は医術の知識や技術がない医者はあっという間に廃業することになる。

　そのためちゃんと医者を目指すものは医者に弟子入りして薬箱などの荷物持ちをしながら、一緒に患者の元へ赴いて実地で医学を学び、十年から二十年間の修行を経て、師匠が認めたらまずは、代診を行い、そこで問題なしとなれば独立を許された後に独立して開業する。

　当然だがその後うまくいくかは師匠となる医者の評判にもよるし、弟子の評判次第では師匠の名も落ちることがあるから、簡単には独立を許さないが、これはこの時代の大工などの職人と同じ。

　基本的にこの頃の医学書は中国から持ち込まれたものであったから、その内容も漢文で記されており、まずは漢文を読めるようになるところから修行は始まるが当然独立するまで給料などはでない。

　出島で西洋医学を学ぶ場合は漢文ではなくオランダ語を読めるようになる必要があるけどな。

　この頃の診療科目はそれなりに分かれていて、地位的に一番高い位置にいるのは内科、ただしこれはヤブも多い。

　他には外科、眼科、口科（現代で言う歯医者に近い）、針を用いる針科、小児科、婦人科などがすでにあった。

　外科といってもこの時代では麻酔やメスを使う手術などが行えるわけではなく、切り傷などに薬草をすりつぶして貼ったりするという程度のものだし、お産自体は産婆が行なうことが多いのであくまでも婦人科は女性特有の病気を診る。

　この時代には保険制度もなく、診療報酬制度もないので診察や薬代は医者が自由に値段を決めたが当然それは患者の全額負担で、平均的な診察料と薬代３日分で金二分（約５万円）から一両（約１０万円）程度が普通。

　なので時代劇にでてくるような病に倒れても医者にかかれない奴は沢山いたし、貧しく医者にかかれない者のために俺は養生院を作ったんだがな。

　これが往診となるとさらに距離によって一分から二両が往診料として追加されるが動けない病人にはこれは辛い。

　この時代の医者の基本的な診断方法は具体的な症状、たとえば頭が痛いとか熱があるとかを患者から聞き、患者の目や唇、舌などを見たり、額に手を当ててみて熱があるか確かめたり、呼吸音や体臭を確認したり、患者の脈をとって脈拍の強弱や緩急で診断を下すことが多い。

　場合によっては患部に触れてみてどのように痛むかなどの患者の反応から診断する触診もする。

　それなりの評判があれば金持ちの患者のみを往診して、本来はおそらく不要な薬も理由をつけて出し、多額の診療費や薬代を出させれば、命が惜しい患者はいくらでも出すので金はすぐに貯まるため、こういう医は金術という医者も少なくはないし、そういう金持ちの患者が結局は治らないで死んでいく姿を見て金を貯めるのが虚しくなり、生活に必要な最低限お金しかもらわないやつもそれなりにいる。

「今後は町医者は登録が必要。

　そしての技術及び知識に試験を行い許可を得ない場合は医者として名乗ることを禁ずる。

　許可のための試験は養生院にて執り行う」

　まずはすでに養生院で働いている医者たちの知識や技術を俺が確認して免許を出すと、そういう立て札を立てて実際に試験を受けさせたが確認は手の空いている養生院の医者たちに行わせた。

　ああ特に試験のための費用はとっていないけどな。

「まあこれでヤブは多少は減るか？」

　とりあえず当面の間は無免許の闇医者は出るだろうけど、あまりにも問題になるような悪い評判だったらそいつは捕まえて追放したりするべきだろうな。