現状の吉原の遊女の格や吉原裏同心の現在など
さて、本来であれば湯屋の湯女や水茶屋の茶娘などが新吉原に流れ込み、まずは囲いや端といった下級とされた遊女が姿を消していき、最終的には太夫と格子も姿を消して、散茶・梅茶が主体となり、散茶の中での呼び出しと呼ばれる遊女が花魁として太夫に近い格を与えられるものの、吉原では教養が必要なお座敷遊びよりも夜の性的行為のほうがメインとなっていくはずであったが、接客時の振ると廻すをやめさせ、囲碁で遊郭日本一になったりしたおかげで、現在の吉原の遊女の格は太夫・格子太夫・格子・囲い・散茶・切見世と言った感じになっている。
小太夫などはホクホク顔でいう。
「大奥でのお仕事なども増えてわっちらは楽になりやしたな」
「そりゃなによりだ」
大奥での娯楽の提供に中見世の囲い等が重宝されるにつけ、その他の藩邸での奥向に中見世の遊女が招かれたりすることも増えたようだ、どこでも奥向の女中等の暇つぶしには頭を悩ませていたようだが旅芸人を招くわけにもなかなかいかなかったんだろう。
教養や芸事を習っても客である商人にはあまり役にたたなかった史実の囲いとは違う結果になって何よりだがそれはそれとして、散茶や切見世女郎が不要とされるわけでもない。
短い時間でやることだけやって安く済ませたいという男のほうが多いからな。
21世紀でもピンサロや廉価なデリヘルが多かったのと同じだ。
もっとも京の嶋原なんかは太夫は増えていくがその下は減っていく方向に進むのはあくまで芸事メインで売春の場所でないという意地を通したからでそのあたりは大阪の新町とも対照的だと思う。
江戸は男が多すぎるので性欲を発散する場所があるのも性犯罪の抑止のために必要だから、散茶のように若くて可愛い娘、もしくは切り見世女郎とでもいたすだけで満足なやつも多いからおれはどちらも抱え込んでいるけどな。
そして、新吉原の楼主は、私娼を見つけたら奉行所に報告し摘発してもらう“警動”という権限を与えられているし、その権限を使って深川門前仲町などの岡場所を潰してきたわけだがいまでもその方向性は変わらない、ただし以前ほど大規模な摘発はしていない。
昼間から客引きしてるような店は潰しているが裏でこそっとやってるやつまで完全に潰そうとするのは不可能だからな。
それでも吉原裏同心が巡回を続けていれば、大手を振って再開するわけにもいかないから吉原裏同心の存在は必要不可欠だ。
そして彼らが一人の女性を連れてきた。
「三河屋の旦那、夜鷹をしてた女だがそっちで面倒を見ちゃくれないか」
その女性は割と品の良い振袖を着た若い女だった。
「ん?街娼に立つにはずいぶん人品卑しからぬ感じだな。
わかった、俺んとこであずかろう」
「うう……」
「腹も減ってるだろうしまずは飯を食いに行こうぜ」
「あ、はい……」
それから俺は女を連れて万国食堂へ行く。
「おう、すまねえがこいつの分の飯を適当に持ってきてくれ」
やがて白米と焼きメザシ、油揚げの味噌汁、大根の漬物が出てきた。
「まずはたべな、それから落ち着いたら話を聞こう」
「はい」
女は涙を流しながら飯を食っていた。
「いったい何が有ったか話しちゃくれないか?」
「はい、ありがたくもこのようなお恵みにあずかりましたからには、包み隠さず申し上げます。
私は浪人のひとり娘でございます。
されど母が死に、年老いた父が病の床に伏してから、売れるものをすべて売りなんとか生活をしてまいりましたが、もはや家に売る物もなくなり、食べることもままなくなりました。
私の貧窮をみかねて、夜道で夜鷹に立てば食い扶持くらいは稼げようと、周りが勧めてくれましたゆえに、恥を忍び残った最後の振袖を着てきょうの夕暮れから道に立ったのです」
「なるほど、そこをあいつらに声をかけられたわけだな」
「はい、いままで人に声を掛けるなどしたこともなく、それゆえに声をかけることもままならず途方に暮れてたっておりました。
このままではあす食べる物もなく、父も私もどうしようかと思っていたところでございます」
「ふむ、なるほどな、お前さんさえよければ吉原で働かねえか?
別に体を売りたくなければ他の働き口もある。
飯炊きが得意だとか針仕事が得意だとかなにかあるか?」
「ならば飯炊きはそれなりに得意でございます」
「なるほど、じゃあ最近始めた仕出しの手伝いをしてもらおうか。
あと、お前さんの父さんは養生院に連れて行ってやろう」
「なんともありがたいことでございます。
この恩は働いてかえさせていただきます」
「ああ、そんなに気にしなさんな、俺は不幸な目に遭う人間には減ってほしいだけだしな」
こんな感じで金銭的に困って夜鷹や船饅頭などをしている私娼はなるべく声をかけて吉原で働けるなら働くようにさせた。
仲居や女中のような住み込みでない女性が出来る仕事はまだまだ少ないのが現実なのだな。
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