清花は順調に成長中だ、桃香もな
さて、脚気対策のために始めた大見世や中見世への夕食の重箱仕出し弁当はなかなか好評だ。
重箱と言ってもでかいものではないし、中身はギュウギュウ詰めにはしてないけどな、太ったとか言われても困るし。
だが他の見世としては夕方の炊事用の薪代やらなんやらを考えるよりは俺のところから弁当をとったほうが安上がり早上がりだし、俺のところはもともと夕食は別に炊いてたわけだから今更それが多少増えても銭は取るからもとは取れるはずだ。
そしてこれで高尾を始め太夫が脚気で命を落とすことがなくなればいいとおもう。
そして娘の清花が無事に一歳を迎えて過ごせたのは嬉しいことだ。
この時代は0歳児(数えの一歳児)の死亡率がめちゃめちゃ高いからな。
「とー」
清花が下に車輪のついた犬のおもちゃの紐を引っ張りながらよちよち歩きをして俺に向かって歩いてきている。
子供にとっては何かをひっぱるというのは結構楽しいらしいぞ。
「よーし、もうちょっとで、とーのところだぞ、清花頑張れー」
俺の声に笑顔で答える清花。
「あーい」
清花も少しずつ言葉を覚えてきている。
そして俺のところへようやくたどり着いた。
「やたー」
「おお、やったな清花」
とはいえ一歳児などをあんまり歩かせすぎるのも良くないらしい。
ほ乳類だけは関節の骨と骨のつなぎ目にある関節頭に白血球造血巣があるため、あまり歩かせすぎると白血球造血巣がくたびれてしまい、白血球が足らなくなってしまうらしいな。
なのであるき過ぎると免疫能力が落ちて翌日に発熱したりするらしい。
よろこんでいる清花の両脇に手を入れて抱えあげてやるともっとよろこんでいる。
「やたー、たかーい」
そんなところに妙が椀を持って部屋に入ってきた。
「清花ーごはんですよー」
「かー、やたー」
俺は妙のもとへ清花を運んでやる。
清花には母乳もまだまだあげているが最近は少しずつ離乳食も食べさせてる。
「んま」
つぶし粥をさじですくって口元に運んでやれば少しずつだが食べられるようになってきている。
「さ、お口を拭いて歯をきれいにしましょうね」
たえがそう言った瞬間に清花はやだやだと顔を歪めた。
「やー」
おかゆなどを食べたら歯を磨かないと虫歯になる可能性が高くなるのだが、歯磨きはいやらしい。
「ちゃんと磨かないとイタイイタイになっちゃうのよ」
「やー」
妙が優しく語りかけながらなんとか歯を磨いてる。
「じゃ、ちーして寝ましょうね」
「ちー」
妙が厠へ連れていきおしっこをさせてから清花は昼寝の時間だ。
昼寝も1日2回の昼寝から1回になってきて、昼ごはんの後にまとめて寝るようになってきている。
午前中は歩いたり遊ばせたりしてちょっと疲れさせて、昼の食事を与え、その後に昼寝をさせ一刻(二時間)くらいねたらまた起きてもらうようにしている。
そんな清花がパチっと目を開けて首を傾げている。
「かー?」
どうやら妙が居なくてちょっと不安らしい。
フラフラひとりで歩いたりもしているけど、特に寝起きは母親がいないと怖がることも結構多くてまだまだ母親への精神的な依存は強いんだな。
あと、何かをしようと思ったとき、それがやっても良いのか駄目なのかを尋ねるようなしぐさをすることも結構あるのでこの時期にやってもいいこととやっちゃいけないことをちゃんと教えるのも重要なんだな、そういった躾をきちんとしているからこそ江戸時代の子供は割と放任して叱りつけたり手でぶったりはしなくてもすんだんだ。
「おーい妙ー」
「はーい、ちょっと待ってくださいね」
まだ清花はキョロキョロしてる。
「とー?かー?」
「おう、大丈夫だぞ、かーはちゃんといるからな」
「はいはい、おまたせしました」
妙は抱っこ紐で清花を抱きかかえる。
まだまだ母親が抱いてやるのは赤ん坊にとっては安心感という面で重要らしい。
「あー」
「はいはい、ちょっと散歩に行きましょうね」
「あー」
ちょっと散歩に行ったり何だりすると清花もまたよろこんで暗くなる頃には眠ってしまう。
「さ、おやすみなさい清花」
「あーい」
妙が優しく子守唄を歌うと清花が眠りに落ちていく。
「あ……」
こんな感じで清花は夜は早く寝てしまう。
そしてそのころ桃香が俺のもとにやってきたりもする。
「戒斗様、よござんすか?」
「おお、大丈夫だぞ桃香」
「では、よろしくお願いしやす」
「おう、桃香もだいぶ強くなってきたから俺もうかうかしてられないな」
俺は桃香と囲碁や将棋をさすようになっている。
藤乃だと強すぎるので、俺くらい相手がちょうどいいらしい。
俺ももう少し強くなりたいともおもうけどな。
「では、ここで」
「げ、そこに来たか、うーむ、どうしたものか、じゃあここで」
「うーん、では、ここでいきやしょう」
桃香も禿としてちゃんと成長しているし、俺にとっては家族も同然だ。
だけど桃香は最近少し寂しそうな様子を見せている気がする。
けど、清花が生まれたからってお前さんを捨てたりするつもりはないぞ。
俺は桃香にも幸せになってほしいと思ってるんだからな。
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