京都から本年度の遊郭競技の種目の通達が来たぜ
さてさて昨年行った京の島原での五大遊郭の囲碁勝負のあと持ち回りで競技を決めることになったが、今年の競技の通達が飛脚によって届けられた。
「ほう、今回は伊勢は古市で開催で、競技種目は盤双六か。
参加人数は前回と同じく団体戦の5人で補欠もありと」
盤雙六とも呼ばれるこの遊びは21世紀の人間が普通に想像するだろういわゆる人生ゲーム的に書かれたマスをサイコロを振って進めるものではなくて、いわゆるバックギャモンのような陣取りゲームに近い12が上下2つに分かれた合計24の区画の上に各自白か黒の15個の駒を所定の場所へおいて、 交互に2個のさいころを振ってその出目に従って駒を進め、先に右端の6ます以内であるゴールに入れた方を勝ちとするサイコロを使ったギャンブル要素もある遊びだ。
その歴史はかなり古く一番最初の原型となったのはエジプト将棋ともエジプト双六とも言われるセネトというボードゲームでこれもサイコロのようなものを使ったようだな。
その後エジプトがおそらくローマ帝国の植民地になった時にローマにセネトが伝わって遊びやすいように改良が加えられてタブラと呼ばれるようになり、中近東ではナルドの名前で広がり、それがシルクロードを通じで中国に伝わると雙陸(シュアンルー)という名前で広がり、中国から日本への伝来は飛鳥時代から奈良時代の7世紀なのだが、盤双六は囲碁や将棋と異なってそのゲームの進行においてさいころの出目による偶然の要素が大きいため賭博に用いられ、持統天皇3年(689年)に持統天皇によって禁止令が出されている。
平安時代の白河法皇がままならぬものと嘆いた「賀茂河の水、双六の賽、比叡山の山法師、是ぞわが心にかなわぬもの」のひとつとして双六の賽があげられているが、これはサイコロの目がままならないというだけでなく賭博を禁止しても一向にやめないという意味も含んでいたようだ。
この頃の盤双六を行っていたのはやはり主に公家やその家の婦女子や僧侶などの教養人であって、それらの相手をする白拍子などもやり方を知っていたようだ。
やはり室町時代には武家にも広がっていって江戸時代には一度庶民にも広まったのだが、当然賭博性が強いこれは幕府から何度も禁止された。
盤双六は囲碁などと同様に公家や武家の女性などの上流階級の婦女子のたしなみの一つでもあったし「嫁入り道具」の一つとしてその道具一式を持たせる慣習のある地域もあったらしい。
「なかなか渋いところをついてくるな」
単純に思考能力だけではなく運の要素も大きいからこそ展開も派手になっていくし、素人でも勝ち目はある。
もっとも駒をどう動かし相手の行動をどうやって妨害するかも重要だが。
そして盤双六は18世紀後半の江戸時代後半にはほとんど遊ばれなくなったが、これはぞろ目は出目の倍だけ駒を動かせたのをやめたり、2個以上自分の駒が入ったマスを6個以上連続している状態を作って自分でこれを崩すまで相手はここを通ることができないようにしたのを禁じ手にしたり、ベアオフと呼ばれる上がりのルールを禁止したりで、いろいろルールに規制をつけていったことでギャンブル要素が減ったりしてつまらなくなり遊ばれなくなっていってしまったらしい。
実際には将棋にまわり将棋みたいな単純なルールが有るように盤双六にも単純な遊び方もあったんだけど行き過ぎたルールの規制がゲームをつまらなくするってことでもあるんだろう。
「ふむ、せっかくだから参加者を多めに集ってみるか」
年末の歌合戦では藤乃と吉野の事実上の一騎打ちだったし、去年は俺が勝手に決めて紅梅に怒られたし、ちゃんと予選を行って強いやつを連れて行くようにしようか。
案外と中見世でも小太夫あたりも強いかもしれんしな。
そして紅梅も今年こそは我こそが吉原の代表!と気合を入れてくるかもしれん。
”求む、今年度遊郭対抗戦の出場者。
種目は盤双六。
参加資格は吉原の何処かの店に所属している現役遊女であること。
盤双六が強いこと。
申込みは吉原惣名主付き秘書・高坂伊右衛門まで”
そして俺は高坂伊右衛門に声をかけておく。
「というわけで今回の遊郭対抗戦の応募申し込みの対応はおまえさんに任せるぜ」
「わかりました、ところで切見世の女郎などでも参加受付はするのですか?」
「ああ、意外とそういう店でも強いやつもいるかも知れねえしな。
ある程度はお前さんなりおまえさんの奥さんなりが対戦して強さをみて決めてくれ」
「これは大役ですなぁ」
「ま、お前さんなら袖の下とかで変な決め方はしねえだろ」
「そのように言っていただけるのは嬉しいことですな」
というわけで今年の遊郭対抗戦もなかなか面白いことになりそうだぜ。
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