清花が生まれて一年たったか月日が立つのは早いものだ
さて3月に入ってまず行ったのは清花のための3月3日の初節句のお祝いだな。
もちろん遊郭だけでなく美人楼などの俺の持っている店全部で桃の節句を祝うことはする。
桃の節句は女性の邪気払いのための行事だが今日は京都御所や大奥、各藩邸の奥向でも盛大にひな祭りは行われているらしい。
そして女の赤ちゃんの誕生後のはじめての節句を祝い邪気を人形に移して身代わりになってもらうための行事としても大事だ。
なので2月末頃からの江戸市中には雛人形を売る雛市が日本橋や浅草・新橋などの各所にたって市は大変に賑わってるはずだ。
一昨年から三河屋の遊女たちの部屋にもこの日は人形を飾っているけど、去年は清花が生まれる直前だったりもしてバタバタしていたけど、今年は俺の持ってる見世や店など全部に人形を置いて飾ってる。
なんだかんだで女の子や女性には大事な日だからな。
そして清花のために雛人形を買って三河屋にやってきたのは妙のご両親。
「こんにちは、孫のための雛人形を買ってきましたよ」
よっこらしょという感じで買ってきてくれた雛人形を床に置きながらお義父さんがそうつげた。
「いつもすみません、ありがとうございます、どうぞあがってください」
「では失礼しますよ」
こういった行事は嫁さん側の両親が理由をつけて娘や孫に会うための大事な機会なので、多少お金がかかっても行事に必要なものとか娘が好きな食べ物とか孫のための衣服とか色々なものを買って旦那側の家にやってくるのだな。
そして妙と清花が元気な様子を見てお義父さんが相好を崩す。
「おお、妙も清花も元気そうだな、私にも抱かせてくれるかい」
妙もニコッと微笑んでお義父さんへ言葉を返していた。
「はい、おとさん、清花も私も元気でやっております。
はい、どうぞだいてやってくださいまし」
「おお、だいぶ大きくなったな。
元気そうで何よりだよ」
「あーい」
お義父さんが清花を抱いてめろめろになっているがやはり孫娘というのは可愛いのだろう。
清花はとてもとてもかわいいしな。
お義母さんは部屋にある赤小本や積み木や木琴なんかをみて驚いてるようだ
「まあまあ、色々なものがあるのねぇ」
やはり妙はニコッと微笑んでお義母さんに言葉を返している。
「はい、おかさん、清花が楽しめるようにと旦那さまがいろいろとしてくださってます」
「おう、よしよしべろべろべろばー」
「ひゃひゃひゃひゃ」
お義父さんも案外赤ん坊をあやすのがうまいな。
清花も楽しそうで何よりだ。
そして人形を飾ってる部屋に膳を持ち込み皆で清花にお祝いの言葉を告げながらお祝い膳で食事をする。
「初節句おめでとう、清花」
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
「あーい」
清花もわかってるのかわかってないのかはっきりは分からないがみんなに対して元気に返事をした。
そして蛤のお吸い物やひし餅・鯛の焼き物・赤飯・桃花酒などの縁起物を食べたり飲んだりしながら清花が無事に初節句を迎えられたことをみんなで祝った。
ちなみに今日は俺の抱えてる見世の遊女や店の女性なども流し雛をしてはまぐりを探すために潮干狩りをしてきて、休みを楽しんでるはずだ。
今年も皆大過なく過ごせると良いな。
そして、その日が終われば人形は納戸にしまわれ、来年まではゆっくり休むわけだ。
それから基本的に江戸時代は年齢は年神様から新たに命をもらうことであがるので誕生日というのはあまり意味のないものなのだが最初に数えの2歳をつまり一年目の誕生日を迎える初誕生だけは違い、一年間無事に生きることができたことを祝って祝宴を行うが、ちっとかわったことをやる。
「さあ、頑張れ清花」
これからの健やかな成長を願うために風呂敷に包んだ一升(約1.8kg)の丸いお餅を肩から脇に掛けてたすきがけで背負わせて歩かせ「一升」と「一生」を掛けて一生食べ物に困らないようにという願いや丸餅を使うことから「一生丸く生き抜くことが出来るように」という願いを込めて行う一升餅という行事だが、数え2歳の子供には一升はかなり重いはずだ。
「わーん」
やっぱり清花がフラフラと倒れて尻餅をついて泣いてしまった。
「ああ、よく頑張ったよ清花、偉い偉い」
尻餅をつくというのも当然縁起担ぎだからこれでいいんだが、やっぱりハラハラするもんだな。
それからさらに行うのは選び取り。
一升餅に比べるとマイナーらしいが、子供の前にいろいろな小物などをおいて子供が何を選ぶかで将来にむいた職業や才能を占う行事だ。
今回用意したのは箸・銭入・筆・手鏡・和鋏・算盤・本・カスタネット。
箸は料理人などで食べるものに困らない。
銭入は銭に困らない。
筆は文筆家の職業適性。
手鏡は将来美男美女、人前に出る職業。
和鋏は手先が器用で縫い物関係の職業。
算盤は計算が得意な商人。
本は学者的な知識職。
カスタネットは楽器に関わる芸者など。
俺は清花に問いかける。
「さあ、清花自分の好きなものを選んでご覧」
「???」
わかってないような清花に優しく妙が声を掛ける。
「清花、一番いいなってものを選んでね」
「あーい」
清花にとっては本とカスタネット以外はどれも見慣れないもので興味津々に覗き込んでどれにしょうかなーという感じで迷ってる。
そして鏡を覗き込むと自分の顔が鏡に写ってるのが面白いのかそれを取り上げた。
「あー」
「ほう、清花が選んだのは鏡か」
鏡は将来美男美女、人前に出る職業につく可能性が高いはずだな。
「清花は将来太夫や役者になりたいのかもな」
俺がそういうと妙が笑っていった。
「あら、それならそれで頑張って応援しましょう、きっとなれますから」
俺もうなずき、母さんや妙の両親たちも嬉しそうにうなずいた。
「ああ、そうだな」
「そうだね、きっとなれるよ」
清花が無事に一年生きてくれて俺はほんとに嬉しいよ。
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