清花と一緒に花見をしたが吉原全体も良くなってきてるんじゃないか。

 さて、3月といえば桜の花見の季節。


 今年も皆で大川の河川敷へと花見へ出かけるぞ。


「いまじゃ普通に外に出れるようになりましたけどやっぱり花見は別格でやすな」


 藤乃がしみじみという。


「お前さんはおそらく今年で最後だもんな」


 コクリとうなずく藤乃は今年で26だ、江戸時代では大年増とか呼ばれるが別にまだまだ若いぜ。


「そうでんな、短いようで長い見世暮らしでやしたよ」


 藤乃は来年で年季明けだがその前に誰かに身請けされる可能性が高いだろう。


 日本一の太夫を身請けするというのは身請けするものから見れば十分なステータスなのだ。


 そこに愛があるかどうかと言うのはまた別の問題なんだけどな。


 桜のように大金持ちではないが一途に思ってくれる男と一緒に暮らすのがいいのかお大名様の側室やお大尽の妾として金に不自由はないが愛はない生活をするのとどちらが幸せなのか。


 ま、それはともかく、3月だとまだまだ寒いから調理にも使えるようにと劇場においてあるロケットストーブを持っていったりもするし、最初は三河屋の遊女がお客さんに銭を出してもらって周りを逃げ出さないように若い衆に取り囲まれながら吉原を出たりしたが、今では遊女の出入りもだいぶ自由になってきた。


 慰安を含めて2回に分けて行うが最初は大見世の三河屋と中店の伊勢屋、それに美人楼などの従業員の半分で行く。


「んじゃ行くぞー」


「あーい」


 もちろん皆それぞれに着飾っていくのは前と変わらないしお客さんと同伴だったりもする。


 だけど、前に比べれば皆表情もだいぶ明るくなったと思う。


 なにせ、浅草千束に移動した直後で夜見世が復活したり水茶屋に客を取られたりでかなり状況が悪くなっていた頃だったしな。


 それでも100年後に大見世がなくなって吉原が芸事の街ではなくなった頃に転生したとかよりは全然マシだったろう。


 お針子や門外店の従業員などで家族が近くにいるものは家族も花見に参加してる。


「よしよし、清花もうすぐ着くからね」


「あーい」


「うむ、娘と花見を一緒にできるとはなぁ」


「まったくですねぇ」


「無事成長してほんとうよかったわねぇ」


 うちも妙と清花と妙のご両親と母さんも今年は一緒に参加している。


 江戸時代のこういった行事は小さな子供も老人もみな揃って一家で参加するのは本来当たり前だったりしたので遊郭の内証の花見というのはかなり例外だったりするんだけどな。


 いつものように帷幕で周りを囲い、桟敷を敷いてその上に上がり後は飲めや歌えで騒ぐのは変わらないが、歌われる歌も吉原歌がだいぶ増えてきた。


 良いことなのかどうかはわからないが悪いことではないと思いたい。


「清花ちゃん、かわーいいでやすな」


 楓が清花をみてよろこんでる。


「おう、そうだろ」


 しかし桃香はちょっと複雑なようだ。


「最近戒斗様、清花ちゃんばかり相手してわっちはさみしいでやすよ」


「そ、そうか?すまん、そんなつもりもないんだが」


 別に清花が生まれたことで桃香が可愛くなくなったとか面倒を見るつもりが無くなったということはないが、前よりは桃香と接する時間が減ったのも確かかもしれない。


「桃香はがんばってることは俺も認めてるし、実際藤乃のおつきもちゃんと務まってるし大したもんだと思ってるぞ」


 俺がそう言うと桃香は首を傾げてる。


「そうでやすか?」


 そこへフォローを入れる藤乃。


「ああ、なんだかんだであんさんはよくやってるわ。

 わっちの後釜としても心配はしてへんよ」


「藤乃様にそう言っていただけるなんてうれしいことでやす」


「まあ、見込みがなかったらとっくに俺に言っておつきから外されてるぜ。

 だからなもうちょっと自信を持っていいんだぜ、桃香はさ」


 そういうとニパッと表情を輝かせて桃香は言った。


「あい、わっちもっともっと頑張って藤乃様みたいな日本一の太夫になりやす」


 俺はそう言う桃香の頭をグリグリなでながらいう。


「おう、そのいきだぞ、頑張れ桃香」


「あい!」


 まあそれはそれとして藤乃が身請けされるなり、年季開けするなりで現役引退した後2代目として名を継ぐのは誰になるかだが。


 あんがい十字屋の売上ナンバーワンである格子太夫の紅梅になるかもしれない。


 なんだかんだで藤乃に負けまいと努力している彼女は大したもんだと思う。


 桜が引退し、藤乃も引退し、茉莉花と鈴蘭はすでに権兵衛親方に身請け先として売約済、楓や桃香は将来有望だが藤乃の後をそのまま引き継ぐのはきついかと思うしな。


 無論十字屋の看板遊女である紅梅を引っ張ってくるならあっちの看板遊女を誰か引き上げないといけないが。


 できれば芸事を教え込む役として残ってほしいとも思うが吉原に残る事を強制したくもないんだよな。


 そんな所へ桜と旦那の清兵衛がやってきた。


「戒斗坊っちゃん、頼まれた桜餅、持ってきましたよ」


 そういう桜に俺は流石に苦笑いだ。


「おいおい、桜から見れば俺はまだまだ坊っちゃん扱いか」


「そりゃ、私から見れば坊っちゃんは坊っちゃんですよ」


「まあ、いいや、そっちの店の調子もいいみたいだし夫婦仲も相変わらずいいみたいだしな」


「あい、子供もようやく授かることもできましたよ」


「おお、子供ができたならそいつはめでたいな」


「あい」


 桜と清兵衛も子供ができたらしいし幸せそうで何よりだな。

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