年末の歌合戦もだいぶ定着してきたな、清花のために楽器をつくってみよう

 さて、話は少し戻すが昨年の年末のすごしかたは概ねいつもどおりだった。


 江戸時代は21世紀ほど変化は大きくないからある意味当然ではあるけどな。


 それでも一昨年は赤小本や定本の選別なんかも有って偉い忙しかったが、昨年はそれがない代わりに清花が生まれて育児中だった分があったから体感としてはおんなじくらい忙しくは感じたけどな。


 例年と同じく店中の煤掃やら店の前での餅つきやらをしながら、年末開催の素人のど自慢や大見世対抗歌合戦はちゃんと開催した。


 弁財天音楽堂も満員で観客の反応も悪くなかったと思うぜ。


 完全素人部門のレベルも一昨年に比べればだいぶ上がったと思う。


「江戸に吉原歌もだいぶ広まってきたよな」


 藤乃がうなずいて言う。


「そうでんな、案外とはやくなじむもんですわ」


 去年も観客は無料で入れるようにしたし丁稚奉公に出てるようなものは無理だとしても小さな子どもも含めて家族そろって見に来てくれたりするのもいいものだ。


 この江戸時代だとギャンギャン泣いたりする赤ん坊はめったにいないしな。


「ここ最近は若い女性も子供も普通に吉原に出入りするようになったのを考えると俺がやって来たことは無駄じゃなかったって思えるな」


「たしかにそうどすな。

 嶋原もわりかし普通に遊女も外に出ていったり、外から人が入ってきていたりしたようですけど」


「ああ、嶋原はあくまでも芸が主だからな。

 吉原もそうなりつつあると思いたいが」


「元は湯屋や水茶屋の娘はそうもいきまへんけどな」


「そうなんだよな……」


 まあ話を戻すがそれでも”カーン”な参加者もいるけどこれは21世紀ののど自慢でもいるし本人は楽しそうだし別にいいと思うんだよな。


 今回の完全素人の優勝者は普段は三味線の師匠をしてる女性。


 去年の妾に続いて素人に入れていいのか微妙だが歌そのものは玄人ってわけじゃないし……いいよな?


 次が旅芸人の部。


 やっぱり彼ら彼女らは歌や三味線の演奏も含めた芸を使って生活してるだけのことはあって、素人の部と違って皆が歌も楽器演奏も上手だし吉原の曲を元にしただろう21世紀の和風ボカロ曲を大きくアレンジしたほぼオリジナルの曲などを披露したり、三味線の速弾きやチェンバロを演奏しつつ歌ったリ、背後でバックダンサーが曲に合わせて踊ったりもしていた。


「旅芸人たちのほうがある意味自由だからかいろいろ試して見てるのが面白かったな」


 江戸の町人はチェンバロの演奏に合わせた歌というのを聞いたものはまだまだ少なかっただろうから特に盛り上がったぜ、三味線なんかに比べると音の幅がかなり広いしな。


 そして大見世対抗の歌合戦については今年はある意味大番狂わせが有った。


 優勝者は玉屋の小紫だったんだ。


「玉屋の小紫もよほどの修練をつんだろうな」


「夏のときの囲碁大会を考えればきっとそうでしたんですやろ。

 負けたんは悔しおすけど」


 もっとも玉屋は史実において太夫を最後まで残し続けた見世でもあるし、2年前はそうとうな経営のピンチでもあったからその分よほどの覚悟もあったんだろうな。


 ちなみに去年は嶋原とかの飛び入りは流石になかった。


「しかし撥弦鍵盤チェンバロの演奏はだいぶもりあがってましたな」


「そうだな、やっぱ珍しいってのもあるだろうしかなり音の幅が広いのも良かったんじゃねえか」


「そうかもしれまへんな」


 そういえば清花もそろそろ新しいおもちゃがほしいかな?


「ふむ、清花のために木琴と鉄琴、カスタネット、トライアングルやタンバリン、シンバル、ハンドベルなんかもつくってみるか」


 このあたりなら作るのも構造的には難しくないし演奏も幼稚園の演奏会などで使われるくらいだからそんなには難しくはないだろう。


 俺は早速権兵衛親方に相談することにした。


「というわけで子供でも簡単に扱えて簡単に作れそうな楽器を作ってほしいんだ」


「そりゃかまわねえが鉄の板とかは俺の範囲外だぞ」


「ん、じゃあそれは鋳物職人とかをさがしてみるぜ」


「じゃあ、まずは木琴とやらからつくってみるか」


「親方の理解が早くて助かるぜ」


「まあ、撥弦鍵盤チェンバロよりは全然楽だしな」


 というわけで木琴が出来上がったらちょっと試しに叩いてみたがいい感じだ。


「さすが親方だな」


「ま、あんたの無茶な要求ももう慣れたしな」


 そして俺は木琴を清花のところに持っていった。


「妙ー、清花ー、新しいおもちゃだぞー」


 積み木とかガラガラとかいろいろおいてある妙と清花の住んでる部屋におれは木琴を持っていった。


「これはどうやって遊ぶのですか?」


「これはこうやってな」


 と木琴をバチで叩くと音がなるのを清花が楽しそうに見てる。


「清花もやってみるか?」


「あー」


 清花にバチを渡したら楽しそうに木琴を叩き始めた。


 ”コンカンコンカンコンカン”


「この歳で木琴を叩けるなんて清花は天才なんじゃないか?」


 俺がそう言うと妙がくすくす笑っていった。


「それはいくらなんでも親ばかがすぎると思いますよ?」


 カスタネットを打ち鳴らしたりする様子もとってもかわいい。


 うん、清花が喜んでくれたのが何よりだ。

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