水戸の殿様からギヤマンのランタンや鏡を大量に作れるようにしたいと言われたけど困ったな
さて、大島で入手したランタンやガラスの手鏡はかなり評判が良いようだ。
「あの手鏡はよく写っていいもんでやすが強いて言うなら手鏡を置けるのではなく据え付けの鏡台がほしいでやすな」
藤乃がそう言ってくる。
「まあ、手鏡だと化粧とかしづらいもんな。
でもお前なら禿に持たせられるだろ?」
「手鏡では小さすぎなのでやすよ。
もう少し大きな鏡のものがほしいんでやす」
「まあ、そりゃそうか」
ただ大きな鏡の鏡台というのはとても重い。
というかそもそもこの時代の鏡台は手鏡を置ける構造になっているだけで鏡台そのものは平安時代から有ったりもするが、ようやく下の台が引き出しになっていて、そこに化粧道具を収納できるようになってきたりはしているが、上には手鏡を置けるだけなのは変わってなかったりする。
そして銅鏡にせよ錫アマルガムのガラス鏡であろうと重たいことには変わりがない。
「いったん将軍様に鏡とかランタンを献上してガラスの製造を広めるか、いっそガラスは官製専売にしてもいいか」
「それで安く手に入るようになればいいでやすな」
「ああ、安くなってくれればいいんだけどな。
もう一度大島に行ってとりあえず買ってくるとしようか」
「ではワッチは本因坊さんとこに行ってきますわ」
「ああ、そろそろ島原とやりあう時期だしな。
今度は負けないようにしないとな」
「あい、負けたままではありんせんえ」
こうして俺はもう一度大島へ、藤乃は本因坊の所で囲碁の腕磨きに別れたわけだ。
俺は早速大島に渡って再びランタンとガラスの手鏡を買うことにする。
やっぱりオランダ語はわからんので通訳は島で雇う。
「やあ、また買いに来たんだがランタンや鏡を売ってくれるように通訳してもらえるか」
「わかりました」
「前と同じ一個が銀5匁(おおよそ一万)でいいよな」
「はい、大丈夫ですよ。
何個買っていくのですか?」
「じゃあ今度は20個ずつで」
「はい、どうもありがとうございます」
とりあえず今回は特に何もなくてよかったな。
しかし、丁銀で買うより銀の皿とかナイフ・フォーク・スプーンなどのカトラリーに細工してそれを売って交換したほうが良さそうか。
「あと、銀製のカトラリー一式を売ってくれるか?」
見本があれば権兵衛親方なり親方の知り合いなりに作らせられるだろう。
加工することによる付加価値って大事だよな。
「カトラリーですか?
合わせて銀5匁(おおよそ一万)でどうです?」
「ああ、じゃあそれでいこうか。
それと女性用の
「化粧台ですか?
それだと銀50匁(おおよそ十万)になりますけど」
「うーむ、流石にたけえな。」
「それはそうですよ鏡も家具も高いのが当然ですから」
西洋だとそもそも木材が高いんだよな。
タンスをヨーロッパ用の輸出品にしても十分が取れるくらいのはずの値打ち品のはずだったりするし。
現代でもちょっとしたドレッサーなら10万円超える場合もあるししゃーないか。
「わかった一つ買おう。
ちなみにナトロン(天然ソーダの結晶)を買おうとしたらいくらぐらいだ?」
「うーん、今は在庫にないそうだよ」
ま、そりゃそうか、ガラスを作るわけでもないしセスキ炭酸ソーダとして洗剤に使うわけでもない江戸時代の日本じゃ買うやつがいないのに持ってきてるわけがないよな。
「一年後になれば入荷できるかい?」
「インドにいけば安く手に入るからそれは可能だそうだよ」
「じゃあ、来年は是非持ってきてくれと伝えてくれ」
「わかったよ」
あとあんまり丁銀での取引をやりすぎて銀の海外流出が問題になっても困るんだよな、銀が減れば結局銀の値段が上がる気はするが。
俺は購入した物を船に積み込んでもらい江戸に戻る。
で、大川の河口で大船から川船に荷物を載せ替えて水路で吉原近くまで行く。
最後は大八車に乗せて三河屋まで運んだ。
「仲通りだけでも舗装しておいてよかったかもな」
ま、舗装道路の維持は大変だったりもするが。
で、みんなで鏡台をかつぎあげて二階の藤乃の私室へ鏡台を設置した。
「これはとても良いものでやすな。
ありがとやす」
珍しく藤乃がかなり喜んでいるな。
やっぱり鏡というのは女性にとってとても大事なものらしい。
で、藤乃が来た時に水戸の若様経由でランタンとガラスの手鏡を将軍様に献上してもらうように頼む。
「どうかよろしくお願いいたします」
「うむ、任せておくが良い。
ところで上様に献上するもの以外に私の分もないのかね?」
「申し訳ありません、かなり高価な上数もそんなにあるわけではないようでございます」
水戸の若様はがっかりしてるがちょっとしくったかもな。
「ふむ、ではいつものようにそちらにて作る訳にはいかないのかね」
「農作物やミツバチの巣箱と違いましてギヤマンを作るための材料が足らないのでございます。
紅毛人商人は大島へは持ってきていないようでして」
「ふむ、
「恐らくは持ってきていないかと。
それと幕府の財政に寄与させるためギヤマンの材料の輸入も製造加工販売も官許で行うのが良いかと」
「ふむ、それもそうかも知れぬな。
うむ、上様などへの話はしておこう。
悲田院や犬猫屋敷などのときと同じように建設の差配は其方が行い幕府から人員は与力などを派遣するものとしようぞ」
「はは、それがよろしいかと」
この時代だと職人から座の運上金を取るという方法もあるけど、もともと禁制品のギヤマンは花火用の黒色火薬のように官許で製造させたほうが面倒なことにならなそうだしな。
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