三河屋の若い衆の一日も色々

 さて、三河屋の遊女たちが生理休暇や危険日休暇で休みが増えたのに対して男である若い衆はどうであったかというと……。


「みんな5日に一回くらいは休もうぜ。

 一遍には休めないから交代でな」


「そいつは助かりますな」


 ということで5日に一回ずつ休むことになっていた。


 番頭や物書きだって働き詰めじゃあ辛いしな。


 熊のあとに番頭に昇格したのははち


 今までは二階番だったが熊が小見世の支配人に昇格したので、その後を引きついでる。


「あっしがいなくても店が回るんもんかと思うとちとばかり悲しいものはありますな」


「そんなもんだ、だいたい誰かがいないと完全に見世が回らなくなるとかじゃ逆に困るぜ」


「たしかにそうではありますがね」


 鉢が休みのときには番頭代理に物書の左兵衛が入って、物書き代理に二階番の豊がはいるようにしてる。


 雑用係の中郎にも休みはちゃんとやるようにしてる。


 この時代の商家は月の休みが1・15・28日の3日か1・6・11・16・21・26の6日はあるのが普通だが遊郭には定休日はない。


 しかも普通の商家は勤務時間は朝五つ(午前8時)~暮六つ半(午後7時)までだが遊郭は昼から翌朝までだからな、と言っても休みに遠出するとかはできないがそれは大体の人間は一緒だ。


「結局、疲れが十分に取れるように働かないと失敗が増えて能率が下がるばっかりなんだよな」


 遊女が睡眠不足になってその結果顔の老化が早まって客が取れなくなったりサービスが十分じゃなくなって客が取れなくなったりするのは長くみたら見世にとっては大損だ。


 男の場合は年期明けなんてのはないわけだから余計にだな。


 現代の風俗もそうだが男の従業員を軽視するとろくなことにならない。


 だからといって甘やかしすぎても駄目なのが難しいとこではあるが。


 見習い雑用係の中郎は2年位はずっとそのままだが、隅々まで掃除が行き届いてるかどうかを見れば使えるか使えないかはだいたい分かる。


 だいたい使えるといえるのは5人に2人もいればいいほうだな。


 で、雑用係としては真面目である程度気がきけばいいが、揉め事の仲裁なども勤めることになれば対人交渉能力も必要になるからそこでもまた絞られてくるわけだ。


 三河屋の若い衆の一日を見てみようか。


 まず明け六つの卯の刻(朝6時)寝ず番が置屋と揚屋の廊下の明かりに火をつけて周り廊下を明るくする。


 泊まりの客が帰る準備だな。


 遊女が客を見送る後朝の別れが終わったら遊女は寝るが番頭は金の勘定、物書きが帳簿を付けてこちらも寝る。


 寝ず番が明かりを消して回るころには中郎が起き出して共用部の掃除や台所や風呂の水くみをする。


「しかし、これがついて随分楽になったよな」


「全くだ」


 井戸に手押しポンプがついたことで水を汲み上げるのはだいぶ楽になったようだ。


「床掃除もだいぶ楽になったよな」


「ああ、ここの若旦那はたいしたもんだ」


 板の間はモップでふけるようになってやはりだいぶ楽になっているらしい。


 雑巾がけは大変だからな。


 朝四ツの巳の刻(朝10時)には昼見世の遊女が起きるから台所ではそれまでに朝飯作り。


 風呂場では湯を沸かして入れるように準備をする。


 風呂番と料理番の男女が忙しいのは変わらない。


 昼九ツの午の刻には昼店が始まるが若い衆達はこの間に休憩と昼飯だ。


「んー、働いたあとの飯はうまいな」


「ま、元からうまいけどな」


 昼八ツの未の刻には夜見世の遊女が飯と風呂になるのでその前までに朝飯作りと風呂焚きだ。


 それが終わったら合間を見て手習いをしたり休んだり。


 中郎は日が完全に暮れたらやっぱり若い衆の寝泊まり部屋で雑魚寝となる。


「明日は休みだしのんびり寝られるな」


「休めるようになったのは良かったよな」


「まあ、たいしてできることはないんだけどな」


 下っ端のうちは流石にそんなに金も出せないしな。


 これでも江戸時代にしちゃいいほうだと思うんだが。

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