吉原の子どもたちの遊び方

 さて吉原は置屋や揚屋、茶屋のような遊郭の建物だけがあるわけではない。


 俺が建てた美人楼や万国食堂、劇場や音楽ホール、花鳥茶屋、室内遊技場と屋外運動公園のような本来は存在しなかった建物以外にも吉原の案内の引き手茶屋、畳屋や障子や襖を扱う建具屋のような建物の維持に必要な店、花屋や小間物屋、煙管屋のような身の回りのものを買う店、蕎麦やうどんなどを扱う半分居酒屋のような慳貪けんどん屋や羊羹や饅頭などを売る茶菓子屋などが店を構えている。


 その他にも外から来て大門が閉まる前には吉原の外へ帰る、髪結いや持ち帰るのが基本の天ぷらや寿司の屋台、いろいろなものを売り歩く棒手振りなど遊女やその客以外の店やそこで働く人間も結構いる。


 そうなれば結婚してるやつもそれなりにいるから子供だっているわけだ。


 吉原で生まれ育つなんて教育上よくなさそうと言われそうではあるが必ずしもそうでもない。


 そして江戸時代の子ども達の一日は大部分を遊びの時間が占めていた。


 手習いに通いはじめる以前の小さな子供はもちろんだが、手習いに通い出した子どもも開いている時間に遊ぶし、下の子供を子守する女の子たちもみんなで混ざって遊んだのだ。


 男の子の遊びとして人気なのは竹馬。


 江戸時代に広まった竹馬だが元は中国にて子どもたちが、竹の竿を馬に見立てて股の下に入れて馬に乗ったつもりで走り回る遊びだった。


 日本では平安時代に貴族の子供が竹に跨って遊んでいるらしい、結構意外だけどな。


 室町時代になると武家にも竹馬が伝わって、頭に馬をつけ足に車輪をつけるものになり、それがいつの間にか長い竹に横木をくくりつけ、その上に足をのせて竹の上端をにぎり歩行する遊びに変わったらしい。


 竹を切って小刀で削るだけで作れる竹馬はなかなか人気の遊びであったりする。


「よーし競走だー」


「負けないぞー」


 二人の子供が道の上に引かれた線から線までの間で竹馬でどっちが早くたどり着けるか競走している。


 21世紀であれば車に轢かれるからと道路で遊ぶことを大人は口うるさく禁止するが江戸時代では周りの大人は子どもたちが道を塞いでも暖かく見守っていたのだ。


 その他にかくれんぼなども人気の遊びだ。


 消火桶など隠れる場所は結構あるから鬼になると駆けずり回って大変だが、子どもたちは走り回るのが大好きだからな。


「あーくんみつけー」


「あーみつかったー」


 女の子の間ではお手玉が人気だな。


 端切れを縫い合わせることで針仕事を学びつつ手先の器用さも鍛えられるお手玉は実用的な遊びでもあるのだろう。


「じゃあ始めるよ。

 おさらいおひとーつ。

 おふたーつ。

 おみーっつ」


 そう言いながら地面の上に置いたお手玉を次々に投げていく。


 最高で11個投げられれば皆から尊敬されるが、流石に11個は簡単ではないからなかなか成功はしないけどな。


「あ、おちちゃった」


「じゃあつぎはわたいね」


 お手玉を落としてしまったら交代しながら遊んでいくのだな。


 その他に女の子の遊びはままごとがある。


 これは男女が混ざる場合もあるけどな。


 ままごとは飯事つまり食事の真似事なわけなのだがこれが案外エグい。


「ではどうぞ」


「ではありがたく」


 何故かと言うとこの時代の食事は上座とか下座とか食べる順番とか結構細かいしきたりがあるからだ。


 女の子はままごとを通してお客さんを招いたり逆によそに招かれたときの挨拶の仕方、家への上がり方、食事の際のお作法や贈り物を送ったり送られたときの贈答のしきたりなどもまなぶわけで、育児中のお母さんがままごとをみてそういったお作法の正しいマナーを身に着けさせたりもする。


 一般庶民のおままごと道具は木を削ったものや壊れた土瓶、紙を使ったものだが男女の区別なく何人でも遊べ、それぞれの家庭内での役割父、母、兄、弟などを決めて、役割を演ずることで遊びがより現実的になり、時には人気のお父さん役を巡ってお母さん役を誰がやるかで喧嘩になったりお父さんが三行半を突きつけられたりすることもあったりする。


 男の子の遊びは無邪気に競争したりするものが多いんだけど、女の子の遊びは針仕事と関わっていたり手先の器用さを鍛えたり、人間関係や近所付き合いのしきたりを覚えたりする実用的なものだってのは結局男は仕事をして、女が近所付き合いをするってのが江戸時代から変わらないってことでもあるんだな。

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