母子ともに無事に女の子が生まれてよかったぜ
さて、1月の睦月が終わって定本や赤小本の大賞の発表も片付いた。
赤小本などはよく売れるようになったし歌劇などの脚本が増えたのは助かるぜ。
その後も季節の行事をこなして桜の季節の3月の弥生になった。
そして妙の
なので生まれるのは3月の弥生の頃のはずだ。
妙のお腹もみてわかるくらい膨らんでいる。
「そろそろ臨月かな」
妙はお腹を擦りながらにこやかに笑った。
「そうですね。
もうそろそろだと思います」
この時代では産婦人科がないので出産は当然自分たちでやるのだがこの時代では妊婦達は出産時は出産専門の産屋に隔離される。
これは血と言うのは穢と考えられているからだが、出血や脱糞などをともなう出産は江戸時代においては不浄なことでそれに伴い妊婦の出産も不浄なものと考えられていたからだ。
そして産屋は男子禁制で俺はその中にはいることはできない。
出産現場と言うのはかなり凄絶なもので夫がその様子を見るとたたなくなることが昔から結構あったらしい、なので世界的にみても出産は女だけでやるのが昔からのやり方だったようだ。
ちなみに隔離されるのは月の穢つまり生理の出血も同様だな。
さらに血の穢れは共通して使用する火を通して移ると考えられていたため、
これは服喪中の者や生理中の女性などもすべて同じ。
「暫く会えないけど体に気をつけてな」
「ええ、わかってます」
産屋に入れるのは産婆や妙の母親や俺の母さん、近所の内儀たちなどの出産経験者のみ。
あと妙の乳が出なかったときに備えて乳の出る乳母を募集して雇ってある。
妙の乳が出るとしても昼夜交代で乳を別にあげられる乳母はほしいからな。
産屋では寝起きするための布団、より掛かるための椅子、盥や樋箱、晒や油紙などは全部準備した。
妙がそれにしがみついていきむための綱も丈夫に作ってあるし、お義母さんや母さんたちが支えてくれるとは思う。
この時代の出産は綱に捕まりながらしゃがんでいきむので一緒に大小便などが出てしまう場合があるのだな。
あとは子供が無事に生まれるのを待つだけだ。
やがて母さんが産屋から出て来たので俺は聞いてみた。
「母さん妙と子供は?」
母さんは笑っていう。
「無事子供は生まれたよ。
お妙さんも無事だ。
女の子だけど名前は決めてあるのかい?」
俺はうなずく。
「妙とも相談しようと思うけど女の子なら
母さんは少し考えてからいう。
「うん、中々悪くないと思うよ」
俺はニコニコしている母さんにいう。
「あと、妙はちゃんと寝かしてやって白粥と柔らかく煮た大根やごぼうと豆腐とわかめの入った味噌汁を食わせてやってくれ。
ちゃんと寝させるのと食べさせるのは大事だからな」
それを聞いて母さんは不思議そうにしている。
「そうかい?食事は粥だけですまして、横になって寝ないようにしないとまずいんじゃないのかい?」
「いやいや、寝なかったらむしろ大変だから」
「じゃあそうするとしようかね」
胎盤は土器に入れて産屋の下へ埋めて、へその緒は桐の箱に入れて大事に保管する。
それにしてもこの時代だと出産後は頭を高くした布団や産後専用の椅子に座らされて、七日間横になって眠ってはいけなかったというのは理由がよくわからない。
出産直後に横になると頭に血が上って大変なことになると思われているみたいなんだけどどう考えても睡眠不足になってかえって良くないよな。
あとはとにかく体を冷やさないこととだな。
そして娘が生まれてから7日目に
親娘が産屋を出て生まれた子供のお披露目と命名をおこなうのだ。
妙はちょっと疲れ気味だが赤ん坊は元気そうだ。
「妙も子供も無事でよかったよ。
そう言えばちゃんと初乳はあげたかい?」
俺がそう聞くと妙はにこやかに頷いた。
「はい、大丈夫です。
ちゃんとお乳はでましたので」
「そりゃよかった。
それとこの子の名前は清花でどうかな?」
「はい、とても良い名だと思います」
「じゃあ、お前は清花で決まりだ」
俺が赤ん坊に向けてそう声をかけたら唐突に泣き出した。
「びえーん!」
「え、なんで泣き出した?」
「たぶん知らない声にびっくりしたんだと思いますよ」
「そ、そうか、びっくりさせたか。
すまんな清花」
盛大にないてる娘をよしよしとあやしてる妙。
元気に泣く娘はきっと将来美人になるに違いない。
育ったときに太夫を目指すか内儀として経営者になるかなどは自由になってると良いな。
さすがに吉原の外に出るのは難しいかもしれないけど。
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