小説のコンテストの選考者に水戸の若様たちが加わったぞ
さて上様の世継ぎ用の読み聞かせの絵本や吉原の歌劇用の台本の江戸中からの公募や大奥からの応募を募って見たところ予想以上に応募があって俺は嬉しい悲鳴を上げている。
ちょこちょこと応募作がふえているし作品のレベルもちょこっとずつ上がってきてる気がする。
「これは助かるな」
俺の言葉に妙も頷く。
「応募される作品の数が多いに越したことはないですからね」
どうやら江戸城の大奥に影響されてその他の大名たちの江戸屋敷における奥向きや大店の商家の奥方などでも物書きが流行しているらしい。
そんなところでいつものように藤乃の所に来ている水戸の若様から呼び出しがかかった。
「三河屋楼主戒斗、失礼致します」
すっと障子を開けて中を見る。
「おお、楼主よ来たか。
お前さんのところで今募集している赤小本だが我が藩の屋敷の奥向きの女中たちも書いていてな。
ぜひ一度読んでほしいそうだ。」
そして若様は供の者が持っている本を俺に渡すように言った。
「ほれお前達、持ってきたものを見せなさい」
本を持ってきてるのはいつもの毒味なんかをしてる人たちだな。
「はい、ではこれを」
とでかい風呂敷包みドサリと床に置く八兵衛さん。
20冊位はあるか?
「これはまた随分とありますね」
からからと笑う若様。
「うむ、我が屋敷でも女中たちは皆物書きに夢中になっておってな。
吉原へ行くのならばならばぜひにと頼まれたのだ。
で、どうかね?お前さんから見て出来栄えは」
俺はざざっと斜め読みして中身を読んでいく。
「荒削りなところもありますけどなかなか面白いと思います」
ウンウンと頷く若様。
「そうであろうそうであろう。
ところでな、その大賞の選考に儂も加えてほしいのと水戸賞を加えてほしいのだがどうであろうか?」
「それは別に構いませんがなんでまた?」
「うむ、儂の方でも子が生まれそうでな。
せっかくなので上様と同じように読み聞かせをしてみたいと思うのだよ」
俺は頷いた。
「そうでございましたか。
では上様に献上したものと同じ赤小本はすでにお買いでしょうからお子様ご誕生のおりには上様に献上した赤子寝台(ベビーベッド)などこちらから贈らせて頂きましょう」
「うむ、それはありがたい」
子供が生まれそうなのに遊郭に来ていていいのかなと思わないでもないが、目的は生まれてくる子供のために絵本がほしいということなのかな?
俺ももうすぐ生まれそうだから気持ちはわかるけどな。
「では、これはこちらでお預かりします。
ある程度はこちらで絞りますので最終選考の際には文を送らせていただきますのでこちらへ来ていただけますでしょうか?」
「うむ、分かったそうさせてもらおうか」
俺は風呂敷に本を包むと部屋から退出した。
「まあ、我が子へ読ませる本は自分で選びたいってのはなんとなくわかるな」
とは言えそうなると募集要項を刷り直さないといけないが。
さっそく内容を刷り直して張り出した後で、それを親藩の殿様たちの家来の武士が見たらしく尾張や紀伊、館林や甲府、会津や松代などの殿様たちからも自分たちも選考に加わりたいという話になったのは言うまでもない。
どうやらこのあたりの藩の奥向きではどこもかしこも子供ができているらしい。
オギノ式を教えた結果を考えればそろそろ効果が出て来てもいいはずではあるし子供が出来るのは良いことではあるが上様に献上したベビーベッドやベビーメリーなどの贈り物を全部の藩邸向けに作るのは大変だな。
「まあ、親方たちに頑張ってもらうしかないけど」
尤も本に関しては赤ちゃんがお腹にいるうちに送ったほうがいいわけだが、すでに選考期日が決まってしまっているし、作品を選考して実際に製本するまでは時間が掛かるので、これは本ができ次第献上していくことにする。
で、結果として今回の絵本コンテストには特別賞がやたらと増えてしまった。
三河屋と吉原歌劇一座による赤小本と正本(上演台本)の筆師及び絵師の公募
応募資格
職業、年齢、性別、全て問わず。
作品内容
赤小本は乳児に読み聞かせるにふさわしい内容であること。
草双紙1冊以上の内容がある作品であること。
絵師は赤小本の挿絵にふさわしい絵をかけること。
正本は既成の物語でなく尚且つ内容が道徳的であること。
草双紙1冊以上の内容がある作品であること。
賞の種類
大賞:賞金10両(赤小本と正本それぞれ1つずつ)
中賞:賞金5両
小賞:賞金1両
特別賞
将軍賞:将軍様へ製品の献上(赤小本)
水戸賞:水戸藩へ製品の献上(赤小本)
尾張賞:尾張藩へ製品の献上(赤小本)
紀伊賞:紀伊藩へ製品の献上(赤小本)
甲府賞:甲府藩へ製品の献上(赤小本)
館林賞:館林藩へ製品の献上(赤小本)
松代賞:松代藩へ製品の献上(赤小本)
会津賞:会津藩へ製品の献上(赤小本)
吉原賞:吉原歌劇での花組・月組・雪組での歌劇化(正本それぞれ1つずつ)
締切
霜月(11月)末日まで
応募宛先
吉原の三河屋に持ち込んでください
受賞作の発表
来年の睦月(1月)結果発表予定です。
応募数によっては一次選考となります。
まあ、生まれてくるのは男じゃない可能性もあるし全員無事に出産出来るかどうかもわからないけどおめでた続きなのは良いことだ。
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