第二回吉原のど自慢の開催告知をしよう、そして吉原歌劇団に玉屋の遊女たちが加わったぞ
さて、四宿を正式に幕府認定の遊郭にしてそこの規律も俺が抑えようとする計画はとりあえず勘定奉行への奏上と親藩の殿様たちへの根回しをしているがあとは結果が出るまで時間がかかるだろう。
そして上様のお世継ぎである竹千代様への贈り物の数々は結構気に入られているようで何よりだ。
その中には菱川師宣が挿絵を書いた
木版画家のなかには切見世の遊女屋にいたがあまり売れない者も含まれていて、暇な時に木版制作や印刷作業を手伝わせてみたところ手先が器用で作業をかなり上手く出来るものはそちらを専業にさせてみたりもしている。
「無理に客引きをするよりもこういった仕事をして安定して銭が入るほうがいいよな」
切見世女郎は頷く。
「はい、ありがたいことですよ」
やっぱり春を売るにしても女が若いほうがいいと考えるのは古今東西変わらないからな。
切見世の女郎は容姿に難点があるか、年齢が高いかのどちらかであることが多いがどちらにしろやはり客引きには大きなハンデがある。
切見世の女郎も人形芝居なども色々やっているが、普通に職人的な仕事ができるならそちらをメインにする方がいいだろう。
そして、吉原劇場と吉原音楽堂の両方ができたことで、大見世の歌劇と中見世の歌曲の認知もだいぶ広まってきた。
「そろそろ第2回吉原のど自慢大会を開いてもいいかな」
妙がうなずきながら言う。
「そうですね、計10曲に及ぶ吉原娘。の歌や踊りもだいぶ江戸に広まってきたし良いのではないでしょうか」
実は吉原娘。の新曲もちょくちょく発表していたのでそれなりの曲数になっているのだ。
なるべく曲被りは少ないほうがいいしな。
「じゃあ、告知を行うか」
「はい、それが良いかと思います」
前回は一般人に混じって旅の女芸人が混じっていたことも有ったから今回は旅芸人の部と一般人の部を分けることにする。
やはり歌や三味線を生業にしている者とそうでないものでは技量に差が出るのも当然だし不公平だと思うしな。
ちなみに今は三河屋と十字屋で吉原歌劇は交互に行ってるぞ。
三河屋は
ちなみに現在の演目はハムレットを南北朝時代の世良田氏、徳川氏の先祖と言われる人物に置き換えて行なっている。
徳川氏の遠い祖先とされる新田義重の四男・義季は、父義重から下野の世良田郷の地頭となったが、その長子の四郎太郎頼有からその次子の頼氏に継承され、彼は世良田弥四郎を称し、世良田氏がここに起こった。
そして世良田氏は新田一族でも有力な分家として鎌倉幕府を滅ぼすのだが、その後新田義貞に付き従ったものと、足利に付き従うものに別れた。
そして徳川家の先祖に当たる世良田政義は信濃国の後醍醐天皇の息子である宗良親王に仕えて下野の世良田郷を離れるが浪合の合戦で戦死してしまった。
そして政義の次男の万徳丸のちの世良田次郎三郎政親も戦に参加していたという。
「南朝の裏切り者として生きるべきか、それとも南朝に殉じて死ぬべきか、それが問題だ」
ハムレットは本来はデンマークの話で父王が急死したことは、それが王の弟クローディアスと王妃による陰謀だったりするんだがそこら辺は大きく変えてあるけどな。
「たとえ裏切り者と呼ばれても生き延びることがやはり大事であるか。
じっと身を潜め運命を堪え忍ぶのしかあるまい」
その後の世良田氏は室町幕府の政所執事の伊勢氏の被官となり南朝からは裏切り者の烙印を押されながらも松平郷を切り開いて勢力を伸ばしていくのである。
そして歌劇が終わった時に玉屋の楼主が俺に声をかけてきた。
吉原の総会なんかでは会ってるが個人的に会うのはだいぶ久しぶりな。
「三河屋はあれこれ繁盛していて羨ましい限りだな」
そういう玉屋は割と真面目に言っているようだ。
「おいおい、お前さんのところはやばいのかい?」
俺はそういうと彼は首を横に振った。
「いや、そうでもないがな。
だがうちの見世がお前さんのところや三浦屋、山崎屋ほど名が上がらないのは確かだな」
「ふむ、それで今日はどういう用件できたんだ?」
玉屋は真剣に話し始めた。
「ああ、お前さんに一度戻した劇場の使用の権利なんだが、俺の見世の遊女たちに劇場を使わせて歌劇をやらせてやってほしい」
俺はそれに頷く。
「なるほど、それは全然かまわないぜ。
遊女たちがそれによってちゃんと食えるようになるんであれば喜ばしいことだし俺も歌劇については相談にのるぜ」
玉屋はちょっと面食らってるようだ。
「そんな簡単に許可されるとは思ってなかったが助かるぜ」
「なに、お前さんは三店同盟のときもいちばん最初に俺のところに来てくれたしな。
人や状況を見る目はあると思うぜ」
「じゃあ、よろしく頼むな」
俺たちはお互いに笑いあった。
そして俺は玉屋に聞く。
「ああ、俺のところは三河屋は花組、十字屋は月組と称しているがお前さんのところは
何組にする?」
「そりゃ花鳥風月から取ってるのかい?」
「いや、別にそういうわけでもないがな」
玉屋は少し考えて。
「なら俺は雪組にしようとおもう」
「雪月花から取ったってわけかい」
玉屋は頷く。
「真っ白なところから始めるのもいいだろう?」
俺は頷く。
「ああ、そいつはいいと思うぜ」
玉屋は大見世がどんどん潰れていく中で最後まで太夫を育てられた見世だし、きっとこれからも先を見据えた商売をしていってくれるだろう。
歌劇でのライバルが増えるのもうちの遊女や観客にも刺激が増えていい影響があると思うしな。
吉原歌劇団もこれで更に活発になれば言うことなしだ。
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