親藩の殿様たちに青銅製の手押しポンプを献上する代わりに江戸の遊郭全体の楼主頭にしてもらえるよう話をしてみよう

 さて、俺が妙に対して過保護になりすぎと母さんにも妙にもいわれてしまったことだし、少し真面目に仕事に戻ろうかと思う。


 ちなみに江戸城に設置された青銅製の手押しポンプは井戸からの水くみが楽になったとの評判だと噂を聞いている。


 江戸城はもともとから埋立地ではないので普通に城の中に井戸があるからな。


 逆に江戸城の東の町民地はほぼ埋立地なので玉川上水などを使ってるからそこまで必要でもないようだが、山の手より西の井戸を使ってる大名屋敷では是が非でも欲しいものとされているようだ。


 もちろんその中には水戸の若様が含まれているのは言うまでもない。

 藤乃の所に水戸の若様たちが来たときに俺はまた藤乃付きの禿の桃香に呼ばれて揚屋に向かっていた。


「戒斗様。

 お殿様が、戒斗様とお話しをしたいそうでありんすよ」


「おう、わかった今行くぜ」


 とりあえず、俺達は揚屋の藤乃が持ってる部屋へ向かい、座敷に上がることにする。


「三河屋楼主戒斗、失礼致します」


 すっと障子を開けて中を見る。


「うむ、楼主よ来たか。

 この鹿肉のぶどう酒煮込みは美味いのう」


 いつもどおり笑顔な水戸の若様は鹿肉のぶどう酒煮込みに満足なようだ。


「うむ、この豚肉の生姜焼きは真(まこと)にうまいぞ」


 紀伊の殿様も豚肉の生姜焼きを食べてほくほく顔だ。


「このごーやーちゃんぷるーなる炒め物もなかなかよいぞ」


 尾張の殿様はゴーヤチャンプルーが気に入ったようだ。


「はい、それは薩摩藩の藩主島津光久様より譲っていただいた琉球渡来の黒豚でございます」


「ほう、琉球渡来の」


「黒豚とな」


 この時代だと養豚は上総や相模でも細々と行われてはいるものの、豚は基本的には食べるために飼われているのではなく雑草を食わせて糞を肥料として役に立たせるための家畜なんだ、馬や牛は高いからな。


 しかし、例外が琉球と薩摩でこの土地では山羊や黒豚、鶏や軍鶏などを飼育して食べることが普通に行われているんだな。


 なので、以前に薩摩の殿様が来たときに藩邸で飼育している豚や山羊や鶏を少々色を付けてわけてもらったんだ。


 向こうとしてもそれらにいい値段がついたことで遊郭遊びの資金もできたし藩の財政も多少は潤ったんじゃないかな。


 薩摩の人々は、豚を『歩く野菜』『歩く薬』と称していて、野生化した猪豚なども捕まえて食べていたくらい肉食にはタブーがないんだ。


 まあ、それだけ薩摩の土地は貧しいのだけどな。


「うむ、ジャガ芋のやぎちいず焼きというのもなかなかに良いものだ」


「ええ、甲斐の貧しい土地でもそだつジャガ芋を美味く食えるのは良いですな」


 会津藩主の保科正之公と甲府藩主徳川綱重公はジャガ芋の山羊チーズグリルを気に入ってくれたようだ


「ジャガ芋にそおすをかけるだけでもうまくなるものだな」


 館林藩主の綱吉公もジャガ芋のウスターソースをお気に召したようだ。


「ええ、皆様に気に入っていただけた何よりです」


 そして水戸の若様はニンマリと笑う。


「うむ、上様はそなたの献上した手押しの水揚げ器を大変喜ばしく思っているようだぞ。

 そしてその便利さを我々にも喜々として話された。

 我が水戸藩の屋敷やそれぞれの国元にも是非欲しいのだがどうかのう?」


 水戸の若様他、この場にいる尾張、紀伊、会津、館林、甲府の殿様たちもどうやら同じように思っているらしい。


「かしこまりました、それぞれ皆様に対して2つずつ贈らせていただきます。

 それ以上必要でございましたらばお買い上げいただければと思います」


 水戸の若様は頷く。


「うむ、そうだな。

 それでよかろう」


 他の殿様たちも特に異存はないらしい。


 手押し式ポンプがあれば井戸から汲み上げられる水の量が格段に増えるしみんなが欲しがるのもわからなくもない。


 そして、こちらが色々料理を提供したり、こういったものを献上したりしているのは結局色々便宜を図ってもらうためでもある。


 俺が浅草寺なんかに対して直接献金しても浅草寺そのものとは仲良くできても他の寺社からは白い目のままでは困ったろう。


 なんだかんだで会津の殿様などは幕府内での発言力はものすごく高いし、御三家の発言力だってもちろん高いから、誰かが口添えててくれただろうお陰で吉原の賦役を復活させてもらえ祭りに参加できるようにしてくれたのはとてもありがたいことだ。


 そのうち藩のお膝元の鋳造職人が手押しポンプを作るようになるんだろうけど、流石に上様に献上したものを勝手に借りるわけにも行かないしな。


 そしてここからは俺のお願いの番だ。


「皆様のお陰で吉原は非人のたまり場から抜け出せました。

 まことにありがとうございます。

 そして、遊女たちも皆感謝しているものと思います。

 現状品川、内藤新宿、板橋、千住の四宿は名目上は遊女はいないことになりましたが事実上は飯炊き旅籠の飯炊き女や水茶屋の女たちが春を売っている状況に変わりはありません。

 ですので、いっその事この四宿を遊郭として公認する代わりに冥加金を徴収するようにしては

 いかがでしょうか?

 できれば遊女纏めの頭の権限を私にいただければ話を速やかにできるとも思っておりますが。

 町奉行所や勘定奉行所のお奉行様にも同じ話はさせていただくつもりですがどうか上様への口添えをいただければと思います」


 水戸の若様はふむと考える。


「そうすることで幕府が得られるものは何かね?」


「はい、まずは幕府は冥加金がえられます。

 そして四宿にとどまる可能性がある不逞浪士などを取り締まることが出来るかと思います」


「ふむ、吉原と同じように扱うことには確かに幕府の得となることも多いか。

 うむ、もしそのような話が上がってくれば我々は口利きを行うとしよう」


「ありがとうございます」


 お奉行様への陳情はまた別途行うし、結果が出るのは当分先だろうけどこういった根回しをしておくのも重要なんだよな。


 穢多頭の弾左衛門や非人頭の車善七なんかの権利をあんまり犯すと面倒なことになるとは思うが、江戸における売春に関して一番強い権限を持ってるのは吉原であるのは確かなはずだしなんとかなるだろう。

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