吉原では廃れていったけど6月16日は嘉祥の行事というものが有ったので今年はちゃんとやろうか
さて、話は前後したりするが、吉原からの外出を禁じられていた遊女や吉原の外では非人扱いされ蔑視されていた楼主などは吉原の外での行事に疎くなっていったりして廃れていってしまった行事や参加できなくなった行事は結構多い。
山王祭なんかもそうなんだがその翌日の6月16日に行われる嘉祥(かじょう)の行事なんかもそうだな。
嘉祥は16個の菓子または餅を神に供えたあとに食して厄除けを行う行事だ。
この行事の起源については諸説があってよくわからんのだが、元は宮廷行事だったのは間違いない。
一説には後嵯峨天皇が即位する前の6月16日に宋の嘉定銭16文で食物を買い調えて御膳に供した例から、即位後もこの日に餅などを奉るようになったという節があったりするな。
そして公武が親しかった室町時代には武家も行うようになって江戸時代には一般庶民にも広まったといういつものパターンだな。
そして江戸時代の宮中ではお上が伺候した公卿たちなどに嘉祥を配ったが、規則を重んじる宮廷にしては珍しくそれには定まった方式はなく、食品は七種あれば何でもよかったらしい。
まあ室町から江戸時代の宮中はド貧乏だったから決まったものが有っても揃えられなかった可能性も高いとは思うけど。
そしてその後に身分の低いものの余興などがあったらしいな、当然ながら俺は見たことはないが。
そして江戸城でも、この日には御目見え以上の諸士に、大広間でお菓子を配ったのだ。
それにならってこの日は民間では銭16文を家人に与えたり餅を食わせたりしたんだな。
本当は餅を16個全部食べたほうがいいらしいが流石に一人で餅16個はきついよな。
しかし一家で16個ならまあ食べられないことはないが、独り身にはきついから菓子でも良いことになったのだろう。
「よし、これは桜たちに稼がせる機会だな」
俺は2日前に桜たちに餅を大量に発注した。
「明日は山王祭りで大変だろうけど、明後日の嘉祥に餅をみんなに食わせたいから160個作って持ってきてくれ」
清兵衛は苦笑して言う。
「餅を160個ですか……分かりました。
なんとか頑張りましょう」
「じゃあよろしく頼むな」
翌日は山王祭でなんだかんだで忙しいだろうが、こういった時に稼ぐのは大事だ。
そして当日の朝から餅を作っていただろう、二人がヒイコラ言いながら餅を運んでくる。
「あいかわらず三河屋さんは人使いが荒いですな。
はい、頼まれました餅160個です」
清兵衛は苦笑しながら言う。
「なに、儲けの機会なんてたくさんあるわけじゃないんだ。
そういうときにちゃんと稼いでおくのは大事だぞ」
風俗や飲食というのは一番客がほしがる時間帯や日にちにどれだけ客を取れるかが重要なのだ。
しかし桜も苦笑している。
「けど、人使いが荒いのは事実ですわ」
俺も苦笑して答える。
「まあ、それは自覚してるさ。
すまんな、桜」
それを聞いて清兵衛が言う。
「まあ、三河屋の若旦那についていけば食いっぱぐれはないと噂にはなってますがね」
それにコクコク頷く桜。
「と言うことだからお前さんたちのためだと理解してくれりゃありがてえな」
「それはわかっていますよ」
「わかっていやすよ」
俺の言葉に苦笑しながら答える二人。
当然買った餅はそれぞれの見世や店、施設などの神棚に備えてからその店の遊女や若い衆、従業員などでわけて食べる。
汁粉にしたり、焼いてきな粉を付けて食べたり食い方は自由にさせた。
「こんな時期にお餅が食べられるなんて嬉しいでやんすな」
桃香達禿などは特にニコニコしている。
「ああ、ちゃんと食べて健やかに育ってくれよ」
桃香がわらっていう。
「あい、わっちら戒斗様には感謝しきれんでやんすよ」
他の禿たちもウンウンと頷いている。
江戸時代では餅は割りと高級品なのだ。
特に津軽から来た娘達は感激していた。
「お餅だー」
「すごいねー」
「美味しいねー」
そう言って食べてる娘達に俺は声をかける。
「美味しいなら良かったな」
娘の一人が小さく言う。
「おっとうやおっかあ、兄弟たちにも食わしてやりたいだなぁ」
「うーん、すまん、流石にそれは難しいな」
「そうだすよなぁ、すんません」
「いやいや、お前さんたちの気持ちはわかるんだが俺にもできないことはたくさんあるんでな」
流石に子供を売って金を得ただろうその家族たちにまで全部餅などを施せるほど余裕はないからな。
それにしても自分を売った家族にも幸せを分けてやりたいと考えるとは本当いい娘だな。
せめてこの子達には幸せになってほしいと本当に思うぜ。
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