そろそろ真面目に各見世なんかのトップを育成しないとまずいな

 さて、大奥での”小説家になろう作戦”は成功したと思う。


 もともとこの時代の文学は、室町時代に発展し、漢字を多用した御伽草子(おとぎぞうし)から、かなを多用する書く仮名草子(かなぞうし)になり仮名草子の全盛期でも有った。


 御伽草子は、戦乱の時代になり貴族は優雅に過ごせなくなった承久の乱以降の鎌倉時代から書き始められ室町時代に発達して江戸時代初期に仮名草子に取って代わられるまで書かれた、主に短編の絵入り物語で、まあ日本の中世におけるラノベみたいなもんだ。


 有名所だと一寸法師、浦島太郎などがそうだな。


 そして仮名草子は平和になった江戸時代に漢字ではなくてカナを用いた漢字がわからなくても読める、主に庶民向けの読み物として書かれた物で、御伽草子をカナで書き直したものや笑話のほか、名所案内記や遊女評判記のような口コミ的ガイドブックなどもある。


 吉原細見もこの仮名草子にはいるんだな。


 そして他人が演じる劇をただ観客としてみるよりも自分で物語を書いたりするほうが自分が書きたいことを書けるから暇つぶしにはもってこいだし願望や妄想の充足にもなるし流行らないわけがないな。


 書いた作品を回し読みして話を追加してみたり、場合によっては自分たちが書いた物語を寸劇で演じさせることもできるし。


 そして江戸城の大奥はその他の大名の藩邸の奥向きの流行の発信元でもあるから、その他の藩邸の奥向きにも文章書きの流行が広まるのはあっという間だった。


 まあ、平安の女流文学も男性文学が漢詩であったのと違って、かな文字による読みやすい文章での女性による回し読みやそれに対する加筆などで長編になっていったりしたのだが、歴史は繰り返すとはよく言うもので、平和な江戸時代の女性が書くものとして恋愛ものが多く書かれているようだ。


「まあ、多くの人間が熱中できるならいいことだ」


 小太夫が笑って言う。


「まあ、大奥の皆さんは娯楽に飢えていんすから」


「ああ、まあ室内遊技室はそれはそれで必要なんだろうけどな」


「みんながみんな、面白いと思うものをかけるわけではありんせんししかたないとおもいんすよ」


「まあ、そうだよな。

 これからもよろしく頼むぜ」


「わっちらこそよろしゅうたのんます」


 とまあ、中見世の遊女の名を売って稼ぎを安定させるだけでなく、本格的に大奥とのコネもできたし万々歳って言いたいところで、俺は十字屋に向かって歩いている。


 三河屋は熊と妙に、西田屋は西田屋の三代目に任せてももう問題はないと思うので大見世の中で俺が手を入れないといけないのは現状では十字屋だ。


 まあ、大見世に関して言えば三河屋や西田屋でやっていたように中見世以下の見世とは差別化しやすいが、大見世の中での差別化は難しい。


「まあ、それでも俺が抱えてる見世だからと客が来るのはまだありがたいがな」


 さて今現在俺が抱えてる役職や店や事業を洗い直そうか。


 まず俺の本業はあくまでも遊郭の経営だ。


 抱えている店はと言うと……


 大見世:三河屋、西田屋、十字屋

 中見世:伊勢屋

 小見世:椿屋

 切見世:長屋一抱え(切り店は遊女の部屋一つずつが独立した店扱い)


 現状6つの店を持ってるな。


 その中でも三河屋と西田屋はもうほとんど俺が口を出さなくても済むようになってるし、元々切見世は遊女の個人経営だからそこまで干渉はしない。


 どの見世でも飯に関しての栄養のバランスや睡眠時間の確保の他に遊女の生理休暇や危険日休暇、その時に働ける副業ができる場所は確保済みだ。


 それから二代目西田屋が死んでその後を引き継いだ吉原惣名主は吉原の遊郭の統括を行い幕府なんかとの窓口にもなったりする。


 後は俺は吉原劇場の支配主でもある。


 大見世の遊女たちに行わせている歌劇の劇団長であり、中見世の遊女達の新生吉原歌舞伎団”吉原娘。”の総合プロデューサーでもあるし、切見世の遊女たちに行わせている人形芝居などの面倒も見ている。


 脚本や作曲、作詞、振り付けも俺がやってるし、吉原劇場大活躍だな、本格的なローマンコンクリートの大劇場はまだ建築途中だ。


 それと美人楼だな。


 髪の毛や全身のマッサージによる手入れなどのエステ的な店と髪飾りや装飾品、扇子などの小間物、ブロマイド代わりの浮世絵や吉原細見などの本など様々な商品を扱っている。


 また子供の預かり所もある。


 髪洗いやあんまなどは危険日で働けない遊女の副業の一つだ。


 ちなみに吉原の中と外に1つずつある。


 もっとも当初は吉原の中には人が入りづらいからという理由だったが現状ではそれがなくなりつつあるけどな。


 それから万国食堂、和洋中の俺が覚えているメニューを色々扱ってる食堂。


 水戸の若様なんかはたまにお忍びで来て食ってるらしいな。


 これも吉原の中と外に1つずつある。


 それと花鳥茶屋。


 元々はウサギを第たり鑑賞できるもふもふ茶屋だったが大島に南蛮人が移動してきてから、様々な珍しい鳥や花などがメインになってる。もちろん未だにモフモフも健在だがな。


 そして吉原運動公園。


 フィールドアスレチック施設が有って男に人気だな。


 室内遊技場も完成した。


 囲碁・将棋・麻雀など様々な対戦型の室内遊技が楽しめる。


 ここは男女関係なく遊べる。


 吉原の中で安く泊まれる吉原旅籠も持っている。


 ここは宴会もできるし、カラオケのように歌の練習もできるし家族で泊まることもできる。


 昼間の男女の密会にもつかえるようにしてある。


 黒湯の温泉も俺の持ってる施設だ。


 もっとも温泉と言ってもさほど温かくはないので沸かしなおしているけどな。


 周りは柵で覆って見えないようにしつつ、露天にしてあるので夜は星が綺麗だぜ。


 洗濯盥は火付け筒などの製品を作る工場もあるな。


 羊毛を毛糸に変えるのはそろそろ終わりそうだ。


 それと遊女の花嫁修業用の長屋と遊女が芸事や教養などを教える遊女手習所。


 花嫁修業用長屋は桜の花嫁修業に役に立たせたし、遊女手習いもなかなかの人気でここも大見世などの遊女の副業として大事な場所だ。


 後は俺が直接持っているわけではないのだが捨て子を拾って育てる養育院、行き倒れや金のないやつでも入院できる養生院、野良犬や野良猫などを引き取って訓練したり希望の飼い主に引き渡す犬猫屋敷。


 流石に孤児院や病院、保健所相当の施設は個人で運営するのは難しいしな。


 後は桜と清兵衛の店の商品のアイデア出しとかくらいかね、まあパクリなんだが。


「うん、いい加減それぞれの施設にリーダーを置かないとな」


 幕府から与力が派遣されてる施設はまあいいとして、その他も全部俺が見て回るのはそろそろ限界だしな。


 しかしどうやって募集したものだろうか。


 番頭新造経験者をまた募集して俺が面接してそれぞれの適性を見て見世に配置してみるか。


 なんだかんだで年季上がりまで遊女屋で働いてる元遊女なら見世を任せることもできるかもしれない。


 まあ、見世の中から昇格させてもいいんだが現役遊女は年季縛りがあるからな、なかなか難しいところだ。

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