やっと盲導犬になれそうな犬が育ったぜ、そして洗眼のため塩目薬を広めよう

 さて、4月も下旬になった。


「今年から仲通りに菖蒲を並べてみるか」


 俺の提案で3月の桜の植木と同じように仲通りに花菖蒲の鉢植えを置いてみた。


 五月頭の端午の節句の準備のためのものだが、咲き誇った菖蒲の花は吉原を訪れるものの目を引きつける。


 5月になったら田植えも開始されるのでその前にバイオトイレの堆肥の散布などもおこなってもらっている。


 稲というのは収獲はたしかに多いがその分やたらと手間がかかる。


 この時代の田圃は四角くなくてすべて手作業だからなおさらだな。


 無論広い田んぼの掘り起こしなどは牛犂や馬鍬を使ったりはするんだが。


 そして野犬や野良猫として捕まえた犬猫を管理している犬猫屋敷でしつけを行っていた犬たちの中でようやく盲導犬になれそうな犬が育った。


 無論俺が個人で買っている犬は番犬としてかわいがっているぞ。


 最も遊女屋は人の出入りが激しいのでほんとうの意味での警備犬として役に立ってるとは言い難いとも言える。


 基本的に誰にでもしっぽをふるからな。


 頭をなでてもらったり、食べ物をもらったりすればやっぱり嬉しいらしい。


 そして俺はいま犬猫屋敷に来ている。


「お前さんもよく頑張ってくれたな」


 俺は犬をなでてやると犬は嬉しそうな表情をした。


 盲導犬は基本吠えないようにしつけられている。


 人間と一緒に生活するために、人間と一緒にあちこちに出かけ、人の食べ物を欲しがらないように教えたりしながら、人間と一緒に生活する事を楽しいことだと覚えさせ、人間の社会で暮らすための基本的なルールを学んだあと、通行人や大八車などの障害物をよけて歩いたり、道沿いにちゃんと歩いたり、段差のある場所人間にわかるように歩く訓練をしてそれらがほぼ完璧になったら、パートナー探しになる。


 そして相性の良いパートナーも見つかったようだ。


「どうかかわいがってくださいね」


 盲人が頭を下げる。


「あい、こちらこそありがとうございます」


 盲導犬とともに歩いて行く盲人の顔も心なし晴れやかなようだ。


 犬には人間の心を癒す効果もあるからな。


 江戸時代は栄養不足で盲目の学者塙保己一のように病気が原因で失明する者も大勢いた。


 そして、江戸幕府は盲目のものには専門の座をもうけ、盲官(盲人の役職)検校制度の公認と奨励も行った。


 大まかにいうとすれば盲人を検校(けんぎょう)・勾当(こうとう)・座頭(ざとう)・市(いち)の4段階に分けて組織だて、国の座をまとめる総検校を最高位として京都に置き、江戸には関東の座の取り締まりをする総録検校を置いた。


 あくまでも寺社奉行の管轄下ではあるがこの座はかなり自治的な運営が行なわれ、検校の権限は大きなものであって、社会的にもかなり地位が高く、惣録検校は十五万石程度の大名と同等の権威と格式を持っていた。


 大名は1万石からであることを考えればこれはかなりのものだな。


 なおかつ視覚障害は世襲ではないため、芸事や鍼灸などでの一定期間の業績が認められれば盲官位が順次与えられた。


 もちろん、そのためには非常に長い年月を必要とするので、なかなか上には上がれないんだがな。


 もちろんもそういった才能のないものもいたからそういったものは岡場所で平家物語や太平記を読み聞かせる講釈師などになったり、物乞いを行ったりするものも居た。


 歌合戦で優勝した女が歌っていたじょんがら節も、もともとは盲人が門付け芸として行っていたものだからな。


 日本での盲人の多さは室内の薪や炭の煙と便所の臭気のもとの悪性のガス、それに加えて眼病の治療法を多くの医者が知らないことや医者にかかるのにカネがかかることなどがある。


 最も便所の方はバイオトイレに置き換えられつつあるので環境は改善されてると思う。


 しかし、薪や炭に関してはどうしようもないな。


 目に煙やホコリ等が入るのが原因なら水で目を洗う事を習慣づければ多少は良くなるとは思うんで、塩目薬での点眼を皆に勧めてみるか。


 塩目薬の作り方は簡単で、煮沸した真水に1%程度の自然海塩水を作りそれを目にさすだけ。


 21世紀の目薬のようなケースはないので猪口に入れて目の上でかざして目に落とす。


 ちなみに薬局とかで売ってる市販の目薬のも成分はほぼ生理食塩水でそれにちょこっとビタミンやら防腐剤やらを入れただけだったりする。


 作った塩目薬を早速自分で試してみる。


「ぬお、結構しみるな」


 しかし、しばらくすると目がスッキリした。


 なんだかんだで結構ホコリだの煙だのが入っていたんだろう。


 遊女や下女たちにも勧めてみたらやはり最初はしみるがものすごくよく見えるようになったそうだ。


 もっと効果を強くしたければメグスリノキの樹皮を煎じて加えればいいはずだな。


 ちょうど今時の季節の樹皮が一番効果が高いらしいから商品化するのもいいかもしれないし、養生院の眼病の患者に処方させるとしよう。


 これで少しは眼病の患者が治療でき盲人になる者も減ると良いのだが。

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