雨の日には道がぬかるんで大変だし吉原の道路の整備を始めようか

 さて、屋外の運動公園の完成に室内遊技場の計画の目処もたった。


 とりあえず室内遊技場の建物は大工の親方に頼むとしよう。


「親方また楼の建築を頼むぜ」


「ああ、構わんよ」


 もはや手慣れたもんだから半月もあれば建物は仕上がるだろう。


 そしてそろそろ吉原の中の道路の整備を始めようか。


 この江戸時代の江戸の街の道路の管理は普請奉行が行っていたが今年から道奉行が行うことになった。


 東海道などの五街道を管理する道中奉行とはまたことなってあくまでも江戸の街の道に関しての管理を行うのが道奉行の役目だ。


 最も管理は行うが実際に整備を行うのはその道路に面している町のものだったりするが。


 そしてこの時代における道路は基本砂を踏み固めたり丸太で突き固めたものだ。


 五街道においては道がぬかるむと物資の輸送の支障になるため砂利道が多用されていたし、峠道などは石畳が敷かれていた場所も有った。


 主に坂道が石畳みなのはちょっとぬかるむと牛馬がぬかるみで滑って坂を上がれなくなるからだな。


 日本の幹線道路は奈良時代に整備されたが、平安時代にはすでに整備が行われなくなって、鎌倉以降の戦乱のため戦国時代まではほとんど整備はされていなかった。


 しかし、徳川家康が関ヶ原の戦いに勝ちほぼ日本を統一した後の江戸幕府は慶長9年(1604年)に全国的な幹線道路の改修事業を開始し、幹線道路の道幅を広げ、可能な限り道を真っ直ぐにし、牛馬や荷車の移動の妨げとなる道路上の小石を取りのぞき、大道の両側には針葉樹を植えるなどを行った。


 さらに、家康存命中の2代将軍秀忠の時代の慶長17年(1612)、道路堤等之儀下知と言うかたちで道路整備に関する布告を出した。


 その内容は


  凹んで水溜まりができるところや泥濘の所は砂石で敷き固めよ。

  道に水を溜めぬために道の脇に水が流れるようにせよ。

  提などの芝をはいではならない。

  よい道に土をおくな。


 などだ。


 しかし、岩を砕いて砕石を多量に作るのは難しい時代でもあり、江戸の町内は路面整備は徹底せず、江戸の街の土の道は少しの雨でもひどいぬかるみになったため、雨の日は皆高下駄を履いて泥道を歩いた。


 下駄は本来雨の日に着物を汚さないための履物だったんだな。


 逆に晴れた日は砂ぼこりが舞いあがってホコリだらけになった。


 そのため江戸の町は初期から湯屋が発達したんだ。


「さて、道路を舗装するとして方法はどうするか」


 舗装方法としては砂利、石畳、焼成煉瓦、ローマン・コンクリートなど色々ある。


 流石に21世紀のようなアスファルト舗装は技術も材料もないから無理だけどな。


 そして可能な限り材料が手に入りやすく、工事が簡単で、コストパフォーマンスが良く、道路の水はけも良くて保守もしやすい方法が良いがそれぞれ一長一短がある。


 ただ砂の道路にもメリットもある、裸足で歩いても痛くないし、転んでも怪我をしにくい。


 江戸時代初期の庶民はそもそも履物をはいていないほうが多いし子供などは特にそうで皆裸足で道路を走り回っていた。


 商売人も行商はあるきまわるので草鞋、飛脚は足袋、大工・鳶・左官は草履を履いていたが履物というのは案外高いのだ。


 そして草履や草鞋を舗装した道路で履いてい歩いたらすぐに履きつぶしてしまうしな。


「となると道路を舗装する部分と舗装しないで砂のままにする部分を分けるか?」


 ならば舗装をする部分はどうするか。


 砂利は水はけも良いし、工事も簡単だが多量の砂利を手にいられれるのならそもそも江戸の街の道はぬかるんで困ったりしないよな。


 石畳は石を加工するのと輸送が大変だ。


 焼成煉瓦は煉瓦の焼成に燃料が沢山必要なんだよな。


 ローマン・コンクリートは石灰と火山灰で材料も安いし、コストパフォーマンスはローマンコンクリートが一番いいかもな。


 火山灰は伊豆諸島などでも手に入るし。


 ただ見た目で言えば煉瓦道がいいよな。


 コンクリ舗装の道はヒビが入ったりすると見かけもいまいちだし、やっぱり味気ない感じがする。


 あとはコンクリートは乾燥に時間がかかる、夏に膨張するとうねる可能性があるなど欠点もおおい。


「まあとりあえず煉瓦道で試してみるか」


 というわけで七輪職人に煉瓦をたのむことにする。


「久方ぶりだな」


「ああ、あんたか、今度はどんな無理難題をふっかけにきたんだ?」


「そいつは人聞きがわりいな。

 何、赤土で煉瓦を多量に焼いて道路の表に敷き詰めたいってだけだ」


「数は?」


「とりあえず1万位でいいんじゃねえか」


「期限は?」


「できるだけ速いほうがいいな」


「やっぱ無理難題じゃねえか」


「まあ、そう言わずに金はちゃんと払うからよ」


「そりゃ金も払わんのだったら話しにならんからな」


 まあ、なんとか経費や期日に折り合いをつけて頼むことには成功した。


「やっぱ、あんたの専属にならなくて正解だったな。

 なってたら今頃どんな働かされ方をしていたのやらだ」


「いやいや、そんなんメチャクチャな働かせ方はしないぜ。

 俺は優しいって遊女たちにも評判だしよ」


「遊女たちから見ればそうかも知れねえがお前さん職人には厳しくねえか?」


「そんなつもりはねえんだがな」


「じゃあ、今度からあんま無茶いわねえほうがいいぜ」


「お、おう、そうするようにしようか」


 まあ、とにかく煉瓦1万個の焼成にもそれなりに時間とカネがかかる。


 出来上がるまでに道路を平らにならし直してきっちり敷き詰められるようにしておかないとな。

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