そろそろ売られてくる子供も来るだろうからなるべく吉原で引き取ろうか
さて、もうすぐ3月も終わり4月になる。
昨年に女衒から仕入れた情報では畿内や東海、南海方面の大雨が有ったようだが、そのあたりは飢饉などは起きずに済んだらしい。
大阪の商いもなんだかんだで普通に行われていたから水害には上手く対処したのだろう。
まあ、上方は江戸と違って文化の中心地としての歴史も長く今までも大雨による被害を度々受けてきたから対処のしかたもわかっているのかもしれないな。
九州の旱魃はなんとか一雨降って最悪の結果は免れたらしい。
もっともそれでも長崎などに子どもを売らざるをえない農民もいるようだが。
そして津軽の旱魃はかなり深刻であったようだ。
そして冬をやっと超えた農村で、農作業が始まるころ口減らしのために女衒から買われてくる女の子が江戸に来る頃だ。
俺は街女衒を通して山女衒に売られた子供はなるべく吉原で引き取りたい旨を伝えた。
「とりあえず、津軽で娘を売るっていう家があったらなるべく吉原で引き取るようにする。
なので、山女衒にはなるべく街道の宿に売らないように伝えてくれ。
無論その分の足代は出す、なんなら直接売りに来てもいい」
街女衒は頷いた。
「ああ、分かった、そう伝えておくぜ」
俺が困ってる農村や漁村へ直接娘を買い付けに行ければいいのだが、そもそも吉原から地方へ簡単に行けるようであれば苦労しないし、この時代は権利が厳しく決められていて、女衒は元々人買い商人であったものでなければできない。
ぽっと出の人間が女衒を簡単にできるほど甘い商売でもないしな。
俺も遊郭の楼主から吉原の名主になりやれることが多少増えたとは言え、やはり俺に出来るのは、農村や漁村の貧しい家の売られた娘をなるべく優先して引き取ってやり多少でも良い生活をさせてやることくらいしかできはしない。
江戸時代は封建制社会だから日本全国の各藩というのは藩は独立した立法権・行政権・司法権・徴税権を持った一つの小さな都市国家みたいなものだから、幕府も細かいところまでは干渉できない。
俺が水戸の殿様に専売を勧めたりしたのはあくまでも提案でしか無く実際にそれを受け入れて実行するという保証もない。
まあ、実際に利益になると考えればやってくれるとは思う、すでにこの時代窮乏した下級藩士は内職をしなければ生計を立てられなくなっている可能性もあるくらいだからな。
そうでなければ水戸藩の勘定方もわざわざ吉原に来て話を聞いたりはしないだろう。
そして、今回は山女衒が直接こちらにやってきた。
小さな5歳から14歳ぐらいの娘達が皆不安げに俺を見ている。
そして山女衒が俺にいう。
「街女衒の兄貴に聞いて今回はなるべく多く吉原に連れてくるようにってことで20人連れてきたぞ」
「おお、ありがとうな。
で、足代含めていくらだ?」
「こっちの10人は遊女として一人頭6両でどうだ?
で、こっちの10人は下女として一人頭4両」
「ふむ、まあ妥当なところか。
わかった全部で100両だな」
俺は100両を用意して山女衒に支払った。
「へへ、毎度あり。
また、いい娘がいたら連れてきますぜ旦那」
「ああ、そうしてくれ」
一人頭6両や4両というのは実際には高い可能性もあるが、まあ商売だけでやってるわけでもない。
しかし、器量が良くないからと旅籠で死ぬほどこき使われる運命に落とさせるのは忍びない。
「よーしお前ら、歩いて疲れたろうからまずは休んでくれ。
それから飯と風呂だな」
娘達は顔を見合わせている。
「あ、あの、できれば飯を先にしてもらえるとうれしいだす」
「ん、そうか、じゃあ先に飯にしようか」
「あい、ありがとうございます」
俺は娘達を万国食堂へ連れて行く。
娘達ははぐれないようにと手をつないでついてきた。
俺は店に入ると奥に声をかける。
「おーい、腹をすかせた小さい子どもたちが好きそうなものを見繕って出してくれ」
そして娘達には座敷に上がるようにすすめる。
「お前さん達適当に座敷に上がって待ってろな。
食えるもんが出てくるから」
「あい」
子どもたちはコクコクと頷く。
「お待たせしました。
どうぞ召し上がれ」
子どもたちに目の前に白い米がたんと入った茶碗がまずおかれ、納豆の入った味噌汁や卵焼きなどがおかれていく。
「わーい、ありがとうおばちゃん」
「おばちゃん……」
うむ子供は残酷だな。
彼女はまだ二十歳だぞ、まあこの時代だと十分おばちゃんなのではあるけどな。
「すご~い、白いおまんまがこんなにいっぱい」
「おう、白飯は体に良くないから吉原では毎日は食ってねえがたまにはいいだろ。
まずはくえくえ」
「いただきま-す」
うむ欠食児童の集団のように皆白飯をうまいうまいと言って食ってるな。
無論女衒も金を出して買い付けた娘だから死んでは元を取れないので、飯を食わさないなんてことはないのだが、女衒が道中で最低限しか食わせないのは普通であるから皆腹を減らしていたのだろう。
その後俺は満腹になった娘達を黒湯の温泉に入れてやってそれぞれにあった着物を買ってやった。
もっとも新品ではなく古着ではあるがそこそこいいものは皆に買ったぞ。
最終的にこの娘達をどうするかと言えば、5歳から10歳までで容姿の良い娘は十字屋の禿にする。
年齢が低いが容姿は普通な娘は小店の禿にする。
容姿が悪いものは吉原旅籠屋や吉原温泉の風呂炊きや飯炊き、針子などの下女見習いにする。
容姿は良いが年を取ってるものは最低限の読み書きや廓言葉を教えてから小店で働かせる予定だ。
沢山娘がいても太夫の候補になり得るのはごくわずか、遊女になれるとも限らないのが世の中の世知辛いところだ。
結局遊女はは一に容姿、二に愛想、三に技術、四に芸事、伍に教養。
そもそも容姿と愛想が良くないと売れないが更に技術や芸事、教養まで求められるのだから売れっ子になるための道は厳しいのだ。
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