2月といえば節分にバレンタインだけど江戸時代にはどっちもないんだよな、まあせっかくなんで梅見でもするか
さて、21世紀の2月といえば節分の豆まきとバレンタインデーのチョコレートというイメージだが江戸時代にはどちらもない。
バレンタインデーが無いのはキリスト教の聖人の日だからで、2月14日は世界各地でカップルの愛の誓いの日とされるがまあ、江戸時代に日本はキリスト教は完全禁止だからな。
とは言え、女性が男性にチョコレートを贈るのは、日本独自の習慣で、プレゼントがチョコレートになったのは、1958年に東京都内のデパートで開かれたバレンタイン・セールで、メリーチョコレートかモロゾフチョコレート、もしくは森永製菓によって行われたキャンペーンによるものらしい。
まあバレンタインデーにチョコを送るというのが定着したのは1980年代頃で中学生や高校生から広まったらしいけどな、学生には2月は卒業や進級などで相手に会えなくなる可能性が高くなる時期だからその前に告白するきっかけとしてちょうどよかったのかもしれない。
まあ、いずれにせよ江戸時代では寺子屋に入った直後の日でもあるし流行る要素はなさそうな気もするが。
もう一つ2月4日の節分の豆まきだが本来「節分」というのは、立春・立夏・立秋・立冬という“季節の変わり目”の前日のことなんだ。
そしてこの時代における立春は12月から1月の間、要するに正月のことだ。
鬼を払うという儀式自体は奈良時代に古代中国より日本に伝わった、桃の木で作った弓矢を射って、鬼を追い払う「追儺(ついな)」という行事が大晦日の夜に行われていて、新年を迎えるにあたって、年内の病疫を鬼に見立て追い払う、という行事は古くから宮中で行われていた。
ただ豆をまくという儀式が行われていたのがいつからなのかははっきりせず確実なのは室町時代辺りかららしい。
このあたりは陰陽師などもだいぶ権力を失っていたからそれと関係があるのかもしれないな。
江戸では大晦日に浅草寺が節分会を行うが撒くのは豆ではなく鬼が家に入れなくなるありがたい御札で豆をまくようになるのはもっと後かららしいな。
そんなわけで江戸時代の2月はいまいちぱっとしなかったりする。
「まあ、盛り上げるために梅見でもするか」
来月には桜が咲くのだが 江戸時代の花見は「花見は梅にはじまり菊に終わる」といわれ、桜より早い梅の花見も盛んなのだ。
もっとも梅の花見はどちらかと言うと老人や歌を嗜むインテリには人気だが若い人々にはそれほど人気なわけでもなくてまあどちらかと言うとマイナーではあるんだけどな。
江戸には梅の名所も多く、寺島村(東向島)の梅屋敷、蒲田村(蒲田)の梅屋敷、亀戸の梅屋敷などの各地の梅屋敷や、亀戸や湯島の天満宮境内などがある。
「みんなで亀戸の梅でも見に行くかね」
そういうことで俺は三河屋、十字屋、西田屋、俺のかかかえている小見世や切見せ、玉屋や三河屋、木曽屋などの遊女にいつものように梅見をおこなうので遊女になるべく客を呼ぶように伝えた。
その他にも中見世や小見世も幾つか参加するみたいだぜ。
こういった行事に加わる見世が増えるのはいいことだ。
参加する見世の遊女たちがみな共同でそれぞれ馴染みの客を呼び、客に金を払ってもらって一緒に吉原の外に出かける。
それにくわえ惣名主の方の業務に携わってる秘書や美人楼、万国食堂やそこの託児所などの従業員、養生院などの医者たちや吉原裏同士の浪人たちも皆連れ立って移動する。
今日は関係した見世などは皆休みだな。
水戸藩や尾張藩、紀伊藩、会津藩、仙台藩、松代藩などから殿様や女中なんかも来てるし当然彼らの警護の武士も居る。
「よしじゃあみんな行くぞ」
「あーい」
今回は皆で屋形船にのって山谷堀を大川まで出て、源兵衛堀などを使って亀戸まで行く。
江戸時代は運河がたくさんあるので船で何処かに行くのも簡単なのだ。
そして亀戸に到着したら皆は船を降りて梅の咲き誇る広小路に向かう。
「よし、到着だ、設営を始めるぞ」
「あい、若旦那」
桜の時と同じように幔幕を張りめぐらせて、その中の緋色の毛氈の敷かれた上に、晴れ着に着飾った遊女たちが、連れてきた客に酒の酌をしたり、鍋であたためた甘酒や燗をした清酒を差し出したり、三味線や琴を弾いたり踊ったりして歌ったり賑やかに楽しんでいる。
各藩邸の奥向きから来た奥女中の女たちも一緒になって楽しんでる。
あいかわらず警護の武士たちは大変そうだがそれが彼らのお役だから仕方ないな。
そして俺は寸胴鍋に大根、人参、里芋、ごぼう、こんにゃく、豆腐、油揚げ、イノシシ肉などを入れて味噌などで仕上げた豚汁やイノシシ肉の料理を作って殿様連中にそれを振る舞っていた。
一緒に青梅、砂糖、古酒を材料にした梅酒も振る舞っている。
「うむ、寒いときにはボタン肉の鍋はとても良いな」
いつもどうり笑顔な水戸の若様。
「うむ、この梅酒も甘くてよいぞ」
紀伊の殿様も梅酒を飲んでほくほく顔だ。
「このイノシシ肉のカツもなかなかよいぞ」
尾張の殿様はたっぷりソースのイノシシカツが気に入ったようだ。
「うむ、猪の角煮も柔らかくてなかなかだ」
会津藩主の保科正之は角煮がお気にいりのようだ。
「猪もも肉の赤葡萄酒煮込みもよいぞ 」
伊達の殿様はワイン煮込みが気に入ったようだ。
「猪肉のひき肉を飯で挟んで食うというのもなかなかのものだな」
松代の殿様たちはイノシシ肉のライスバーガーが気に入ったようだ。
「ええ、皆様に気に入っていただけたようで何よりです」
まあ、武家にとっては肉を食うことは禁忌ではないし、寒い日には温かい肉料理はやっぱいいよな。
もっとも館林や甲府の殿様は奥さんが公家なのも有って今回は参加しなかったのがちょっと残念だが。
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