1月20日はえびす講、なのでまた遊女の手作り人形を売り出そうか

 さて、黒湯の採掘のための井戸掘りや春以降に主に男の子が遊具を使って遊べるフィールドアスレチック施設の建設を進めながら、2月1日の吉原劇場での素人のど自慢の開催準備もすすめている。


 もちろん鉄砲洲や深川の水茶屋への吉原への移転交渉やそれが駄目そうな場合の証拠の入手と実力行使に関しての準備も行っている。


 念の為にお奉行様には途中経過や浪人を何人雇っているか、なんで大人数を必要とするかは説明しておいた。


 単純に水茶屋の数が多すぎるので調べるためにも自衛のためにもそれなりの人数が必要だということを説明した上で金子を渡したら納得してくれたぜ。


 地獄の沙汰も金次第、ましてや江戸時代の現世じゃあこういった心付けは大事なのだ。


 中にはポツポツと吉原にうつれるならと水茶屋から移ってくる茶立て女も出てきた。


 もちろん主人には許可を取ってるようだ。


「そっちのほうがちゃんと休めてたんと食えるって噂本当です?」


 俺は水茶屋の娘に言う。


「ああ、たぶんそれに関しては大丈夫だ」


 どうやら吉原の遊女たちの待遇が悪くないという話は江戸の女たちにも少しずつ広まってきたようだ。


「じゃあ、お世話になっていいですか?」


「ああ、わかったこちらこそよろしくな」


 最も水茶屋の遊女は若くて愛想もいいが太夫になれるほどの教養は持ち合わせていない。


 なので小見世にまずは入ってもらい評判が良ければ中見世や大見世に移れるようにすることにした。


 最も水茶屋での売春の料金は小見世と同程度くらいである場合も多いし、湯女上がりである場合按摩や風呂での垢流しも抵抗はないので美人郎の按摩をやらせつつ髪の手入れなどのやり方なども覚えさせたり、旅籠などでの内湯での客の垢流しをさせたりもしている。


 そして、藪入が開けて妙や下女たちも三河屋などに帰ってきた。


「実家はのんびりできたかい?」


 妙は嬉しそうにニコリと微笑んだ。


「はい、お父もお母も元気で何よりでした。

 お母の手作り料理というのはいいものです」


「ああ、そいつはよかった。

 あちらさんも娘の元気な顔が見れてよかったんだろうな」


「ええ、昨年の店の売り上げも順調だったし父母ともに明るい顔で出迎えてくれたので私も安心できましたよ」


 おそらく江戸の忙しいおかみさんコンテストをやれば上位入賞は間違いない妙だからたまには実家でのんびりするのもいいだろう。


 なんだかんだで俺は色々施設を建て続けたりしてるし木材の代金支払いは一括現金払いだから木曽屋やその仲間もそこそこ潤ってるだろう。


 さて1月20日は10月の20日と同じくえびす講の日だ。


 やることは同じ。


 主に裕福な商人の客を招いて一緒に祝い定紋付きの手拭いを客に贈る。


 夷棚を飾って鯛、お神酒、餅、果物、親戚や知人を呼んで宴席を設け、宴席のものに値段をつけて売り買いのまねごとをしたりもする。


 昨年は遊女たちに端切れを使って梟のぬいぐるみを作らせた。


「今年はどうするかな。

 前と同じでもいいができれば違うほうがいいだろうし」


 そこで楓が手を上げた。


「はーい、わっちらの人形を作るのがいいと思うでやんすよ」


 俺はそれに頷く。


「ああ、なるほどお前さんの作ったウズメはん人形なかなか評判良かったしな。

 髪型を変えられたり着せ替え可能な和紙や布の人形を作って売りだすのはいいかもしれんな」


 ままごとや人形遊びの原型は平安時代から有ってままごとは、貴族の子女が、紙人形を使って食事や祭りのまねごとをして遊んだのがはじまり。


 ままごとが庶民のあいだに広まったのは例によって江戸時代からだ。


 平安時代の貴族の子どもたちは、高価な漆塗り漆器などをままごとの道具として使っていたが、江戸時代の庶民には高価な道具をつかえるわけもないから、木や石や紙を使うことで代用して、食事ごっこをたのしんだ。


 ”まま”はおまんま、つまり食事のことだな。


 このままごとは大人の間の食事のルールを再現したり他人と一緒に遊ぶことで社交性や協調性を得られる遊びとして結構情操教育にも有効だったりする。


 平安時代の頃から”おかえりなさいあなた、食事にする?お風呂?それとも私?”みたいなおままごとも有ったということだろう、いや平安貴族は風呂にはそんな入ってないはずだけど。


 でもって、江戸時代では雛人形のような精巧に作られた飾って眺める人形だけではなく、墨を塗った和紙などで婦人の髪型を作り、千代紙で衣装を着せた紙人形は姉さま人形と呼ばれ、江戸時代でも、女児が日常のままごとなどに使う手遊び人形として親しまれているのだ。


 あまり金のない家では和紙ではなく路傍の草などを織って姉さまの髪型や衣装にして遊んでいたくらいだ。


 こうした人形は、手足はなく目鼻口を省略したものも多いが、幾種類もあった女性の髪型を覚えたり、それにあわせた衣装を着せ替えたりして楽しんだんだな。


 なんだかんだでバービーちゃん人形やリカちゃん人形、シルバニアファミリーまで人形遊びは21世紀でも廃れていない。


「じゃまあ、高級なやつは綿を入れたぬいぐるみ。

 廉価なやつは和紙を使って作るとするか。」


「よーしがんばりやすよ」


 そう言う楓は嬉しそうだ。


「わっちらも負けてらんないねぇ」


 藤乃たちも盛り上がってるぞ。


「お姉ちゃんわっちらはどうしようか」


「そうだねえ…」


 茉莉花と鈴蘭は相変わらず仲がいいな。


 もちろん高級なぬいぐるみはなるべく精巧に作って大名や旗本などの上流武士・将軍家や親藩に嫁いでいる公家、金を持ってる豪商の子女向けに売り、小見世などの遊女などには和紙を使った素朴な姉様人形を作らせる。


 で、高級品も廉価品も定期的に新しい吉原での流行の柄の衣装や髪形の売り出していけば飽きられないだろう、最初は美人楼においてある程度年間を通じて売れるようになったら人形店を専門に出してもいいな。


 その際おままごと用セットなども売るのもいいかもしれない。


 こうして見世では針子も手伝いながらみんな苦心しながら、ぬいぐるみをお客さんに買ってもらうために一生懸命作った。


 そしてえびす講の当日になった。


「さてさて、皆さんいらっしゃい、うちの見世の遊女たちが心を込めて作ったお人形だ。

 いまなら髪型ときせかえ用の衣装2つもおまけにつけるよ。

 さあ、買ったかった」


 そうしたら金のある商人らしい男がやってきた。


「おお、うちの娘ためにひとつくれ」


「へい毎度あり」


 結果としてはやはり人形はすぐになくなった。


 去年のえびす講に引き続いて今年も人形を売ることは予想されてたようだ。


「よしよし結果もでたし満足だな」


 いつの時代でも人形遊びというのは女の子には人気なのだと改めて知った一日だったぜ。

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