13日までに終わらせるために本格的に煤掃をやるぜ
さて、年神様を迎えるための年末の準備は着々と進行中だ。
そして氷室も無事完成したようだ。
「おお、親方、助かったぜ」
「なに、どおってことないぜ、へへん」
「そうしたらすまないが、俺の抱えてる見世や施設の煤掃を手伝ってくれねえか」
「ああ、いいぜ。
それなりの手間賃はもらいたいがな」
「ああ、そりゃもちろんだ」
この時期はお武家様は色々忙しいので吉原そのものも割と暇だしな。
こういうときにちゃっちゃと部屋を掃除しちまおう。
そしてこういうときに日本式家屋は色々楽なのだ。
基本的にベッドとかダイニングテーブルとかダイニングチェアのようにでかい家具が置きっぱなしになっているわけではなく、基本的に布団や膳などは収納できるのが前提となっているからな。
箪笥や鏡台などもそんなにでかいわけではないから運ぶのも簡単だ。
そして、部屋の仕切りが襖や障子が多いので、それらを外せば繋がった部屋をいっぺんに掃除できる
まあ、そもそも21世紀の人間とは基礎体力も違うが。
みんな手ぬぐいを頭にかぶって、手ぬぐいを口元にもして、ホコリから髪の毛と喉を守る準備ができたらたすきがけをして、前掛けもして動きやすい格好になって掃除を開始する。
「よし、まずは襖を外したらちゃんとハタキをかけて紙が汚れてるやつは職人に張り替えてもらえ」
「あーい」
「へい」
見世の襖を全部張り替えても別にいいが流石にそこまで汚れてないしな。
神様もそこまでしろとはいわんだろう。
「障子も外したら枠を筆でちゃんと綺麗にするんだぞ」
「あーい」
「へい」
「障子も陽に焼けて黄ばんだ奴は張り替えてもらえよ」
「あーい」
「へい」
こうして考えてみると和紙というのは書物のように記録を残すために使われているものより、障子や襖などに使われてる量のほうが多いのかもとも思えるな。
そうなると文字の書きやすさとかよりも丈夫さな方が大事なのかもしれない。
まあ、障子紙は結構簡単に破れるけども。
「押し入れの布団も干して棒で叩いてホコリを飛ばしてやれよ」
「あーい」
布団はもっとこまめに干したほうが健康にもいい気がするな。
この時代には布団乾燥機もないから湿気をどんどん吸ってしまうのはやっぱ良くないよな。
部屋の構造的には布団をこまめに干せるようにもなってないし、ちょっと考えないといけないか。
縁側に布団を垂らしてポフポフと木の棒で叩けば結構ホコリも出てくる。
布団を綺麗に洗おうとしたら、綿を抜いて外側を洗い、布団を打ち直してやるしか無いが、手間とかが大変だし金もかかるなんだよな。
まあ流石に新しく買うよりは安いが。
そして箪笥や鏡台を外に運び出す。
「鏡台もちゃんと磨いてもらえよ」
「あーい」
「へい」
江戸時代では鏡の大量生産が可能になり、一般庶民でも鏡を持つことができるようになったが、江戸時代の鏡は青銅に水銀をメッキしたものなので、長く使ううちに曇ってくる。
なので鏡磨きの専門の職人が存在するのだな、鏡がちゃんと磨けているか気になった女性が背中にひっついて覗いたりするので、鏡磨職人は背中に女性の胸が触れる役得なども有ったりする。
「よし天井のすす落としだ、目に入らないように気をつけろよ」
「あーい」
「へい」
買ったばかりにの煤竹を手に持って天井のホコリやすすを落として行く。
床に落ちたら使い終わったお茶の葉をかたくしぼったものを、畳の上にばら撒いて畳の目にそってほうきではいていき、乾いた雑巾で乾拭きして綺麗にする。
「さて、少し休憩にするか」
「わーい」
「へい、そうしやしょう」
軽く食える握り飯や煮しめ、甘い白玉などをみんなで輪になりながら食べて休憩にする。
まあ、動きっぱなしじゃむしろ能率も下がるしな。
そんな感じで禿などの部屋などから掃除していき13日には太夫格の部屋まで置屋と揚屋のすべての掃除が終わった。
武家だとこのあと畳も障子も襖も全部新品にするそうだがここではそこまではしない。
西田屋、吉原の劇場や万国食堂、美人楼などの俺が持ってる施設の掃除も終わったし、小見世や切り見世の方もしっかり終わっていた。
「よーし皆ご苦労様だった。
万々歳!」
「万々歳!」
そして何故か始まる胴上げ。
「わーっしょい、わーっしょい」
「わーっしょい、わーっしょい」
煤払いと胴上げの関係はよくわからないが、始まりは大奥だといわれる。
吉原では普段憎まれている遣り手を胴上げする事が多いらしい。
普通の武家や商家だとこの胴上げ、とにかく誰彼かまわず標的にされる。
もっとも一番に狙われるのは若い美男美女で異性から標的にされることが多いらしい。
この胴上げはどさくさ紛れのセクハラでも有ったようだが真実は不明だ。
まあ、大奥なら若い男がいたらもみくちゃにされてもおかしくはないわな。
それと同時に門松用の松や笹竹などを上野の山に取りに行く。
江戸時代の門松は葉を繁らせた背の高い笹竹を何本かまとめ、その下に松を巻きつけ、さらに固定用に薪を束ねたものでばかみたいにデカかったりする。
「よし、こんなもんだろう」
「へえ、そうですな」
其れが終われば、あんこ餅と鯨汁、蕎麦でみんなを慰労する。
「あー、こうして食べる鯨汁はまた格別だな」
「わっちは甘い餡子餅のほうが」
「蕎麦もなかなかいいよねぇ」
今頃は小見世や切見世の女郎たちもたんと食べてるだろう。
年末の大掃除が終わったら明日の14日は一日のんびりできる。
まあ明後日の15日からはまた餅つきやらで忙しくなるんだけどな。
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