あっという間に師走か時の流れは早いもんだ
さて、色々やってるうちに月が変わって師走になった。
十二月八日は事始めもしくは正月事始めの日で二月八日の事納めの日と合わせて「事の八日」と呼ぶんだな。
この事始めの日と事納めの日は地域によって逆の場合もあるが江戸では12月が事始めだ。
事始めを十二月八日とするのは都市部が多く、年神を迎えるための正月行事を始める日と考えるし、二月八日を事始めとする場合は、正月行事が終わって、農作業等の日常の営みが始まる日とする考えるわけだ。
だから農村なんかではこの日を境に事始めまでは冬の休みをゆっくり過ごすわけだな。
都市生活をしてる人間はそんなにのんびりしていられないのが辛いところなんだが。
「まあ、農民のほうが楽とも言えないからなんとも言えないけどな」
おそらく大干ばつだったらしい津軽の農民は今頃大変なのだろう。
年神は、年徳神、正月様、恵方神、大年神などとも呼ばれる神様で家々に1年の実りと幸せをもたらすために、高い山から降りてくるといわれてる。
本来年神の年を示すのは稲の実りの周期のことで、年の始めにその年の豊作を祈願するようになり、それが年神を祀る行事となってそれが正月という行事になった。
やがて、商業が発達して農業を行わない人間が出てくるとそういった人間が集まる都市部では「年神」は「年徳神」と呼ばれるようになって、歳徳神のいる方角は「恵方」と言って縁起の良い方角とされた。
21世紀の恵方巻きがなぜ恵方というのかはこれが理由だな。
田圃の神様に祖霊信仰や陰陽道などがまとまって習合され年神という存在が作り出されたわけだが、正月に家に飾り付けをするのは、本来年神を家に迎えるためのものであるし、門松は年神が来訪するための目印でもあるし依代でもあり、そして鏡餅は年神への供え物だったんだ。
だから鏡餅は鏡開きより前に食べちゃいけないのさ。
そして事の八日には古くから大根、里芋、コンニャク、ゴボウ、焼豆腐などを入れた事汁(おことじる)、いとこ煮、六質汁などと呼ばれる煮物を作って食べる風習が有り、これが後に雑煮の原型の一つになったらしい。
「というわけで、今日は事汁だからみんなちゃんと残さず食えよ」
いつもの朝食の味噌汁を今日は里芋や根菜がたっぷり入った汁に変えて遊女たちに振る舞う。
「はーなんか体が温まりますなぁ」
藤乃がのほほんとそんなことをいう。
「そうだろう、根菜は体を温めるんだぜ」
ごぼうが普通に食材として扱われるようになったのは江戸時代からで、ごぼうを食材として食べる習慣がある地域は日本以外は殆どなかったりする。
ごぼうはもともとは薬草として扱われていたくらいで、世界中の主な地域でも薬草として扱われている。
そしてごぼうは強い抗酸化作用を持っていて胃腸系のガンに効くともいわれている、日本の冬の煮物には欠かせない食材なんだがまあ見た目が大根や人参と違って茶色い木の根っこみたいなので地味というか美味しそうに見えないのはしょうがないんだけどな。
そして大根は根っこも食えるし葉っぱも食える、そして消化を助けてくれるありがたい存在でもある。
実際に大根はおでんや味噌汁、ぶり大根などの煮物以外にも生では大根おろしや刺身のツマ、たくあんなどの漬物、切り干し大根のような乾物もあり、ごぼうやネギとともに冬の大事な野菜であるのだな。
もちろん小見世や切見世の食堂などでも同じように事汁を今日は出させる。
「ふあ、これはいいですなぁ、体が温まります」
切見世の女郎なども喜んでたべているようだ。
まあ、食べ物は健康に直結するから大事にしないとな。
そして十三日の煤掃(すすがき)いわゆる大掃除をその日までに終わらせるためにこの日から見世などの年度末の掃除が始まる。
今でいう年末の大掃除は「煤払い」「煤取り」「煤掃き」「煤納め」などと呼ばれているが、なぜ13日という日なのかというと、二十八宿の鬼宿日(きしゅくにち)で、婚礼以外ならすべてのことが吉のめでたい日とされているからだ。
煤払いというのは年神を迎えるためのお清めの儀式なのでこの日までに間に合わ無いとまずい。
それこそ江戸城などは広すぎるので師走になったらすぐ掃除を始めるそうだし、大名屋敷や大店の商店なども年末の大掃除をそろそろ始めるはずだな。
「煤竹(すすだけ)、まあたらしいすすだけはいかがですかー」
そういった声が外から聞こえた。
「煤竹売も煤竹を売りにきたか」
煤竹と言うのは青い葉の茂った笹竹や、竹竿の先に藁を束ねてくくりつけたものでこれをハタキのように使って天井などのすすを落とすわけだ。
煤掃は神様を迎えるための神事の1つなので、神聖な植物とされた笹が使われたらしい。
そして煤竹も新しいものを使うことが多かった。
なので煤払いが行われる12月13日が近づくと江戸市中で笹竹を山から切ってきた煤竹売りが現れて売りまわるわけさ。
なので煤竹売りは師走のはじめ頃の風物詩なんだ。
「じゃあ、禿の部屋から煤掃を始めるぞ」
「あい、はじめやしょう」
中郎などの雑用を主に行う若い衆と禿や新造たちが頭にすすよけの手ぬぐいかぶって、口元にも手ぬぐいをして禿の部屋から掃除をはじめた。
まあこれなら13日の畳替えには間に合うだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます