鉛筆と消しゴムを作るとしようか

 さて、洗濯盥をメインとした生産工場を作るにあたって、やはり筆記用具が筆だけというのはとてもやりづらいと感じたんだよな。


「やっぱ万年筆とか鉛筆とか消しゴムがほしいところだよな」


 鉛筆を作るとなると黒鉛が、消しゴムを作るとなるとゴムが必要なんだよな。


 黒鉛は鉛と付いているが金属の鉛ではなく、炭素化合物だ。


 古代の植物が地中に堆積し熱と圧力で黒鉛になったといわれて、石炭や純度の低いダイヤモンドみたいなものと考えてもいいかもな。


 中国や朝鮮半島ではこの黒鉛が大量に取れる。


 日本国内でも蝦夷や美濃の鉱山などで取れるが量は少ないんでたぶん華僑から買った方が安い気がする。


「ここは華僑商人と取引して手に入れるしか無いか。

 ついでに杜仲の木なんかも手に入れておこうかね」


 杜仲は杜仲茶で有名で21世紀では中国にしか存在しないが6千万年前くらいにはユーラシアの各地に、いろいろな種類の杜仲が存在していたらしい。


 そしてその樹皮は漢方薬の原料として使われ、21世紀では養命酒の原料の1つでもあるらしい。


 若葉はお茶として利用され日本でもブームになった。


 そして杜仲の樹皮に傷をつけたりや枝を折ったり葉をちぎると、白色乳液が染み出すが、これが天然ゴムとして利用できるのだ。


 まあ、杜仲に限らず、特定の植物が植物が樹液としてゴムを生成する理由やそのメカニズムはよくわかっていないのだが。


 しかも杜仲はゴムの木と違い、寒冷地でも育つので江戸時代の寒い日本でも育成は可能だ。

 しかも杜仲茶にはカフェインが入っていないのでカフェインを取ると問題が起こる可能性がある妊婦などにも優しい。


「というわけでちょっと大島に行ってくるな」


 妙が頷いたあと火打ち石でカチカチとやって見送ってくれる。


「はい、お気をつけて」


 熊も頷いた。


「へい、行ってらっしゃい」


 俺は妙や熊に店を任せて大島に向かうことにした。


 その途中で養生院にもよって向井元升に欲しい中国の医薬品の目録を書いてもらった。


「やはり、大陸でないと手に入らぬ物も多いですからな」


 向井元升のいうことも最もだ。


「了解、なるべく手に入れてくるよ」


 南蛮商人は全て大島に移動となったが、華僑商人も一部は江戸の近くの大島に来るようになっているのだ、長崎が拠点のままのやつも多いけど、江戸の近くに華僑商人が来たほうが中国大陸や東南アジア情勢も早くてに入るからな。


 江戸時代というと日本はオランダ以外とは貿易をしていなかった印象があるが、実は華僑系との取引が一番多かったりする。


 清は国家としては海禁施策を取っているので、国家としての取引はないのだが。


 そして俺は船に乗って海を渡り何事もなく伊豆大島に到着した。


「小見世の遊女連中もなんだかんだでうまくくやってるみたいだな」


 俺は通訳を伴って華僑の商館に向かう。


 そして華僑の中国人から杜仲の若木やその他中国茶の茶葉、目録の医薬品、黒鉛や宋鉄(中国大陸の製鉄された鉄のインゴット)など手に入れ、オランダ人からはもう一度乳山羊や羊、ドードーの番などの家畜や見世物目的の鳥獣を購入した。


 今回も取引には真珠のブローチ、漆塗りの柘植の櫛、銀の簪、螺鈿細工の漆器のお椀、七宝細工の皿などの細工物と交換だ。


「外国の商人たちが大島に来てくれて本当に助かるぜ」


 そして船で江戸に戻る。


 医薬品を養生院においていってから、吉原に戻る。


 羊や山羊は会津や松代、甲斐の殿様なんかに譲るつもりだ。


 羊の毛を刈って羊毛が手に入れば馬鹿みたいに高い毛織物を買わなくても済むし、標高の高い場所なら羊も夏の暑さで死ぬこともなかろう。


 それから工場に行って持ち帰ってきた黒鉛を金槌で砕いて粉々にしたそれに粘土と水を加え、よく混ぜ練り合わせたあと、よく混ぜられた原料をさらに石臼で細かくすりつぶしてもう一度練り合わせ、其れをところてんを押し出すあれのようなやつに入れて押し出し、細長いくて丸い鉛筆の芯を作って、そろえて適当な長さに切りそろえ、よく乾かした後、焼き固め、すべりを良くするために芯に熱い油をしみこませ、ゆっくり冷ます。


 これで鉛筆の芯が完成だ。


 16世紀のイギリスで鉛筆が最初に考え出された時は焼成などの加工はせずに、天然黒鉛を適当な大きさに切って手が汚れないように糸をまいたり、板で挟んだりしただけだったようだが、それだと硬さが足りないだろうから一応な。


 さらに鉛筆の軸に使う木を加工する。


 妙の実家の木曽屋から杉の板材を購入して薄い板にしたあと、芯を入れる半円の溝を削り、そこに膠を薄く塗って、芯を入れた後、其れを貼り合わせ、重しを載せて接着し、切り揃えた後六角に削る。


 これで鉛筆の完成だ。


 小刀で先を削ってかけるようにした後、俺は紙に鉛筆を使って文字を書いてみた。


「やっぱり筆より全然書きやすいな」


 まあ、書きやすい代わりに消えやすいので可能なら万年筆を作りたいところな。


「後は消しゴムか」


 これは杜仲の木に傷をつけた乳液に糊をまぜて乾かせばいい。


 あんまり糊を入れすぎると固くなりすぎるから注意はいるけどな。


「こんなもんか?」


 出来上がったものは消しゴムというより練り消しだが、まあ使ってみたらちゃんと消せてるからいいか、むしろ消しゴムのカスも出ないし便利かもな。

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