酉の市の賑わいはこの頃から変わらないぜ、これに乗じて裏門を通年で開けるようにするぞ

 さてさて、あっという間に11月になった。


 11月の酉の日は酉の市が行われ吉原はものすごく賑わう。


 酉の市は鳥越町の長國寺の鷲大明神を祀る祭りだな。


 長國寺は後の寛文9年(1669年)に、新吉原の西隣にあたる現在の地(台東区千束)に移転して、明治維新の神仏分離のときに独立して鷲神社となった。


 鷲大明神は天日鷲命(あめのひわしのみこと)、日本武尊(やまとたけるのみこと)をお祀りした由緒正しい神社。


 そして酉の市が始まるといよいよ年の瀬という感じがするんだよな。


 21世紀の浅草でも盛大に行われてるんだからなんだか不思議な感じだ。


 ちなみに酉の市は浅草や新宿の花園神社などが有名で規模も大きいが酉の市(お酉さま)の発祥地は、武蔵国南足立郡花又村(東京都足立区花畑 竹の塚近辺)にある大鷲神社(鷲大明神)の収穫祭が、江戸酉の市の発祥なんだ。


 江戸時代も最初期は、武家は綾瀬川を船で上り、町人は徒歩で詣でたが、江戸からは遠かったため、そのうちに千住の赤門寺に「中トリ」、浅草竜泉寺で「初トリ」が行われ、浅草の大鳥さまの酉の市が大きく開かれるようになった。


 浅草までは江戸だがその先は田圃ばかりの田舎というのが江戸時代だからな。


 もっとも、寛永7年(1630年)に創建された長國寺でも11月酉の日に、多くの参詣者の厚い信仰を集めて門前に市が立つようになってたからそれが浅草「酉の市」の発端となってるんだけどな。


 この日は商売繁盛を願うでかい飾り熊手を抱えた客が吉原へ押しかけたんで、吉原の西河岸の裏門をこの日だけは特別にあけて通したりもするんだ。


 なんで熊手なのかというと日本武尊が東夷征討の際、この社に立ち寄って戦勝を祈願し、征伐を無事終えて帰途する途中に、社前の松に武具の「熊手」をかけて勝ち戦を祝い、お礼参りを行った日が11月の酉の日だったからもしくは日本武尊の命日が11月の酉の日だったからという話だ。


 それが事実かどうかはわからんがな。


 もともとは戦勝祈願だったが平和になってからは開運や商売繁盛の祭りにかわって、もともと「酉」は「とりこむ」という縁起担ぎでもあったから、宝船などを飾った熊手も富や幸運をかき集めるという縁起物として売り出されたらしい。


 俺はこの酉の市で裏門を開けることに乗じてこれを通年化したいと思っている。


「やはり、もっと吉原に自由に入れる雰囲気は作りたいよな」


 吉原は明治になるまで大門しか出入り口がなく閉鎖的な雰囲気も変わらなかったし、そのせいで火事や地震のたびに多くの遊女が犠牲になった。


 出入り口が一つ1つしかないとすれば大門近くで火事があれば逃げ出せなくなるのは自明の理だ。


 もちろん吉原のお歯黒溝には非常用に九ヶ所の跳ね橋はあるのだが、大きな地震などのときには役に立たないことも多いからな。


 俺は総会を開いて西の裏門の橋を跳ね橋ではなく堅固な橋に取り替えて、裏門からも自由にできるようにすることを話し合った。


「もし、明暦の大火みたいな火事があって大門が焼けちまったら逃げ出すにも大変だ。

 そのためにも西の水道尻の所にある裏門を通常から出入りできるようにしたいと思うがどうだろうか?」


 三浦屋はいう。


「まあ、いいんじゃねえか。

 だが非人女が逃げ出さないように見張りのための番所は必要だと思うぜ」


 俺は三浦屋の言葉に頷く。


「ああ、そうだな。

 奴刑の非人女に脱走されても困るから見張りは必要だな」


 基本的には奴女郎は刑罰で遊郭で働かされ彼女たちは無給だ。


 もちろん衣食住は見世負担だがな。


 最も吉原から脱走を考えなければならないほどの遊女たちへの待遇の悪さはなくしてきてるとは思うんだがな。


 結果としては総会では賛成多数で西門を常時開けることが決定した。


 もちろんその後勘定奉行や寺社奉行に金をわたしながらその許可を取る必要は有ったが、これで吉原の裏鬼門を開けることには成功したのだ。


 無論そちらにも新たにお稲荷さんを祭神とした祀ったさ。


「これで、悪い気がたまることも少なくなるだろうな」


 風水から考えてればこれで吉原の”悪所”としての気の悪さは軽減されると思うんだがな。

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