10月20日は夷講なのでちょっと売り物を考えてみよう
さて、10月20日は夷講(えびすこう)の行われる日だ。
恵比寿、戎、夷、蛭子とも書かれるが七福神の恵比寿さんを祀る日だな。
恵比寿さんは右手に釣り竿、左手には縁起の良い鯛抱えてる福々しく太った男性の神様だがもともとは兵庫県西宮市の西宮神社の祭神で、大国主命(おおくにぬしのみこと)に息子の事代主命(ことしろぬしのみこと)であると言われている。
これは大国主の国譲り神話において事代主が釣りをしていたことからなのだが、海の神や五穀豊穣、商売繁盛の神として信仰されているのだ。
あるいはイザナギとイザナミの間に生まれた蛭子(ひるこ)であるとも言われてるな。
そういう立場の神様なので10月の神無月でも恵比寿さんは出雲に帰らずに家を守り続けてくれるとされている。
で、まあ恵比寿さんは商売繁盛の神様なので、客商売をする者は皆信仰していた。
だから吉原では、主に裕福な商人の客を招いて一緒に祝い定紋付きの手拭いを客に贈る。
夷棚を飾って鯛、お神酒、餅、果物、親戚や知人を呼んで宴席を設け、宴席のものに値段をつけて売り買いのまねごとをしたりもするのだ。
「じゃあ今年からは本格的に物を売ったりするかね。
妙、熊、どう思う?」
熊が俺の言葉に頷く。
「まあ、いいんじゃないですかね。
で、一体何を売らせるんです?」
俺は熊に答える。
「端切れを使って手作りの細工物を作らせようと思うんだ。
裁縫の練習もしておくに越したことはないしな」
妙はそれを聞いて苦笑い。
「みなさん裁縫をしたことがないとすれば大変だと思いますけど……」
俺は妙にいう。
「まあ、だからこそやっておくべきだとも思うんだ。
将来身の回りの世話をしてくれる下女がいる生活をくれるとも限らんしな」
「まあ、そうかもしれませんね」
そういうわけで俺は三河屋の針子に遊女たちに端切れで細工物を作らせるので針などの使い方を教えてやるように頼んだ。
「まあ、そういうことだからあんまり難しくなさそうなもので頼むな。
梟(ふくろう)あたりなんかはそこまで難しくないと思うんだがどうだろう?」
針子が少し考えていう。
「そうですね、梟でしたら不苦労につうじて縁起も良いですしそこまで難しくもないですから
良いかと思います」
「よし、決まりだな」
こうしてえびす講までに一人一つ以上の端切れを使った梟を作る事が決まったのだ。
まあ、やはりやったことなのい事をいきなりやるのは大変なようだが。
「うーん、案外と針仕事というのもむずかしいもんなんだねぇ」
藤乃は結構苦労してるようだ。
「こんな感じでどうかなお姉ちゃん」
「うん、うまくできてるね」
茉莉花は結構針仕事は得意らしい。
「戒斗様、わっちのこれどうです?」
楓は梟じゃなくてウズメはんを縫ってるな。
「お前さん結構器用なんだな、ああ、いいと思うぞ」
「えへへ、わっちとうずめはんは切っても切れない仲ですから」
なんだかんだで一番最初の頃ほどの勢いはないにせよ、楓の脱衣劇は人気があるんだよな。
なんというか明るくて見るものを楽しい気持ちにさせるのは楓の天性の才能なんだろう。
みんな苦心しながらも、梟をお客さんに買ってもらうために一生懸命作った。
そしてえびす講の当日になった。
「さてさて、皆さんいらっしゃい、うちの見世の遊女たちが心を込めて作った梟の縫い人形だ。
これを持てば苦労知らずになること間違い無し。
霊験あらたかなウズメはん人形もあるよ。
さあ、買ったかった」
物珍しげにしていた男女がパラパラとよってくる。
「これ太夫さんが作った人形なんですか?」
歌劇を見た帰りらしい町娘が俺に声をかけてきた。
「ああ、うちに看板太夫の作品だ」
「これいくらですの?」
「お前さんが出していいって値段でいいぜ」
「じゃあ……」
町娘は100文を取り出して俺に渡した。
「これでお願いします」
「ああ、ありがとうな」
町娘は嬉しそうにそれを受け取っていった、この時代の太夫はトップアイドルみたいなものだからな。
その手製のものであればやっぱり嬉しいのだろう。
もちろん今でも直筆の名入姿絵などは美人楼で売ってるんだが。
ウズメはん人形は熱心なファンらしい男が買っていったし、他の人形もあっという間に売れていって完売した。
「まあ、なかなかの結果かね」
惜しむらくはあっという間になくなってしまったので残念そうに帰っていく奴がいたことか。
これからはちょこちょこ作ってもらって、祝い事のたびに売ったり贈り物にしたりするのもいいかもな。
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