秋はキノコ狩りの季節でもある、そして江戸時代のきのこ狩りは女性の楽しみの1つだった

 さて、芋掘りと芋煮は結果として成功したと思う。


 特に水戸芋は掘りたてでも低温で加熱すればそこそこ甘くなるので皆うまそうに食っていた。

 ジャガイモはやはり油がないと美味く食べるのは難しいらしい。


 じゃがバターはうまいがこの時代だとバターは貴重品だしな。


 まあ、天ぷらの普及しつつある現在の江戸時代であればフライドポテトも普及させるのは不可能ではないと思うし、イギリス名物フィッシュアンドチップスみたいな白身魚と一緒に揚げたジャガイモを屋台で提供してみてもいいかもしれない。


 さて、秋の味覚は当然芋だけではない。


 稲なども収穫の時期だし柿や栗などもこの時期から出回り始める。


 そして秋の味覚と言えば食用のキノコもそうだ。


 なのでそろそろ、きのこ狩りついでに食用キノコの原木採取とその人工栽培をしようと思う。


 夏には霊芝や冬虫夏草を人工栽培を試してみたがこれ等は薬であって食べ物ではないからな。


 秋にはしいたけ、しめじ、まいたけ、えのき、なめこ、松茸、ヒラタケなどの様々なキノコが取れるが、きのこ狩りという行楽が町人に広まったのも江戸時代かららしい。


 日本は温暖で湿度が高く、きのこにとっては増殖しやすい環境でその種類もかなり豊富だ。


 そして日本では縄文時代に土器が開発されて煮炊きができるようになるとキノコはその頃から食べられてはいたようなのだが、弥生時代に稲作が本格的に行われるようになると農民には秋に山に入る余裕がなくなっていく。


 なので平安時代頃はキノコ採りは貴族などの身分の高い者の行楽になり、この頃は松茸とヒラタケが珍重されていたようだ。


 平安時代でも松茸は貴重で、酒宴の席で食した他で余った分は、土産や贈り物として大事に使われていたらしい。


 安土桃山時代には武士もまつたけ狩りを楽しみ始め、豊臣秀吉も好んでキノコを食べていたらしい。


 そして平和になって余裕が出てきた江戸時代になってようやく町人もきのこ狩りを楽しめるようになったわけだ。


 特にこの時代の町人の女性にとっては弁当ときのこを入れる手提げかごをぶら下げて、近くの山や雑木林にでかける茸狩りは、趣味と実益を兼ねた楽しい行楽なんだ。


 まあ農村は今頃は稲などの収穫や脱穀で忙しいからなかなかきのこ狩りなんてしていられないだろうけど。


 夏のときと同じようにまずは勘定奉行と寺社奉行、それに寛永寺の許可を取って上野の山に茸の採取の許可を取り人工栽培用の土地を更に借りて、そこに入り茸の種となる茸が生えている木を探して人工栽培を行うとしよう。


 そして今回も寛永寺や奉行所には取れた茸の一部を納めることにする。


 賄賂じゃないかと言われるかもしれないが、付け届けというのは重要なのだ。


 そしてきのこ狩りに行くということを遊女には得意客に伝えて一緒に来てもらうことにした。


 そしてきのこ狩りの日が来た。


「よし、じゃあ、今日は茸と原木を探しに山にいくぞ」


「はーい」


 俺はなじみ客に金を出してもらった遊女や、生理休みや危険日休みの遊女、見習いの新造や禿、切見世や小見世の遊女やその他の見世でも余裕のある女達には籠を若い衆には背負子を持たせて、上野の山へ向かう準備に入った。


 後はキノコに詳しい人間も連れて行くことにする。


 流石に大名様に毒キノコを食わせたらまずいしな。


 まあそのための毒味としての付き人もいるのではあるのだが。


 本当は見世を休みにして全員連れて行ったほうがいいんだろうが、また月見なんかもあるしなぁ。


 あまり休みばかりにするわけにも行かないのがサービス業の悲しいところだ。


 みな山の中でも動きやすい服装にさせ草鞋や脚絆を足に巻き俺はナタを持つ。


 水戸の若様や紀州の殿様などを中心にその他にも金の余裕のある商家のなじみ客や藩邸の暇を持て余している奥女中たちなども参加している。


 なんと大奥の奥女中も参加してるらしい、茸を手土産に将軍の関心をかいたいのか、単純に暇つぶしに参加してるのか、まあ両方かも知れないが、結構な給料をもらってるのに暇と言うのはなかなかいい身分ではあるよなぁ。


 まあ、美人楼のお得意さんもいるみたいだから無碍にもできないけど。


「うむ、楼主よ、今日はキノコ料理だな。

 期待しておるぞ」


 水戸の若様がニコニコとそういう。


 この江戸時代のキノコ料理と言うのは高級品なのは言うまでもないが大名にとってもあまり食べられるものではないらしい、単純に変わったキノコ料理を食べたいだけかもしれないけど。


「ええ、期待してください」


 そして俺は下人などが出立の準備ができたことを確認してあるき出した。


「よし、みんないくぞ」


 遊郭の留守は熊に任せる。


 妙は今回は同行してもらう。


「あい、わっちらの準備はできていんすよ」


 藤乃がそういう。


「のんびり茸狩りというのも楽しみですね」


 妙も嬉しそうだ。


「戒斗様行ってらっしゃいませ」


 熊に見送られ皆で山に入り、まずは松茸を摘み取っていく。


 松茸はこの時代では割りと取れやすい方の茸だ。


 松茸は生きた松の根っこに生えるから、芝刈りなどに原木を持っていかれることもないしな


「うん、いい香りだな、松茸がこんなに手軽に手に入るとありがたみも何もないがな」


「まあ、それはそうでんな」


 上野の山というのは実質的な江戸幕府の直轄領のようなものなので人もそうそう入ることはないということも大きいのだろうけどな。


 21世紀の日本では高級品だが取れても全く食わない地域もあるし面白いものだと思う。


 さて、見つけたものでまだ食うのに適していない小さいものは大きく育つようにそのまま残し、野生の猪や猿、鹿、昆虫などが齧って穴が空いたりして腐ったものは取り除きその茸から周りに腐敗が広がらないようにする。


 松茸の生えた松をそのままこの山から吉原に運んでいけば、もしかしたら松茸を栽培できるのかもしれないが、まあ許可も出ないだろうし、運ぶ労力にも合わんだろう。


 許可をもらって取りに来たほうが恐らく楽だし、楽しみにもなる。


 そうやって松茸をある程度採取したら場所を移動する。


 時は金なりだ、山の中に生えている様々なきのこを取ってはかごに入れて、人工栽培する予定の椎茸、エノキタケ、シメジタケ、ヒラタケ、マイタケ、ナメコタケ、キクラゲなどは胞子の確保のために茸の生えている枝ごと持って行く。


「皆さん毒なのか食用なのかが判別がつきにくいきのこは捨ててください」


 専門家の言葉に俺たちは頷く。


 はっきり毒とわかるキノコより食えるか毒なのかわからないキノコのほうが怖い。


「おや、きのこが生えた枝ごと持っていくかね?」


 紀伊の殿様が不思議そうに聞いてきた。


「はい、茸はカビのようなものですのでこれをもとに茸の生えてない木に茸を移して人工的に栽培して増やそうと思っているのですよ」


 紀伊の殿様は驚いたようだ。


「なんと、そんなことができるのか?」


 水戸の若様も後ろで聞いてるな。


「まあ、成功するかはまだわから無いですけどね」


「いや、ミツバチに関しての人工的な巣箱づくりは私の所では役に立っているぞ。

 ぜひ茸の育て方も教えてもらいたいものだ」


「はい、わかりました。

 後ほどお教えします」


 そして水戸の若様もよってきていった。


「うむ、ぜひ私にも教えてもらいたいぞ」


 まあ水戸の若様ならそう言うだろうな。


「わかりました。

 水戸の若様には色々お世話にもなっていますしね」


 そうして、皆の背負子や籠が一杯になったらみな山を降りる。


 皆きのこがたっぷり取れてほくほく顔だ。


 自分で食べるものもいるだろうし贈り物として使うものもいるのだろう。


 吉原の外に戻れば万国食堂で早速調理開始だ。


 まずはきのこと鴨肉の入ったホワイトシチュー。


「うむ、実にうまいし温まる」


 水戸の殿様は満足げだ。


 同じく茸と鴨の鍋。


「これも良いな」


 紀州の殿様はこちらのほうが好みのようだ。


 さらには鴨肉としめじの炊き込みご飯。


「ほんまうまいでんな。

 わっちらはほんま幸せですわ」


 藤乃がそういう。


「ほんにうまいです」


 桃香も今回は食べられてるようだ。


 うまいものがくえて笑顔になるならこれ以上の幸せはないよな。


 さて翌日、俺は水戸の殿様及び紀伊の殿様の使いの者の目の前で夏にやったのと同じように、原木になたを入れてそこに茸の生えていた木をくさび状に打ち込んで、それに名前を彫り込んで見せた。


 そして最終的にきのこを採った元の場所に戻すことなどは紙に書いて渡した。


 人工栽培が美味く出来るかは運も大きいからあとは俺も含めて試して見るしか無いんだけどな。

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