松代の殿様も大変なんだな

 さて、桜や明石の病状も改善しつつあるし小店の遊女は大島の南蛮人というお得意様もできた。


 まあ、病気が怖いので大島へ渡航した遊女は帰ってきたらまずは全員念入りに美人楼の蒸気風呂に入らせ、更に納豆もちゃんと食わせることにする。


 もし高熱を出したら可愛そうだが完全に隔離して様子を見るしか無いな。


 コレラ、ペスト、天然痘、マラリア、赤痢、チフス、黄熱病などインドやバタビアには風土病が多い。


 こういったものが江戸中に広まって疫病の大流行などが起きても困るからな。


 まあ、江戸時代初期は長崎の出島からも疫病が広まったということは多分なかったと思うからそこまで心配することはないかもしれないがな。


 長崎奉行は江戸時代の出世コースの1つだし。


 あと江戸時代初期は蒸気風呂で湯船がなかったのがかえってよかったんだと思う。


 なんせ江戸後期の湯船は水が黒くなっていてもなかなか変えなかったらしいからな。


 そんなことを考えていたら、また俺は藤乃付きの禿の桃香に呼ばれた。


「藤乃様のお客はんが、戒斗様とお話しがしたいそうでありんすよ」


「ん、わかった、行くとするぜ」


 俺達は揚屋の藤乃が持ってる部屋へ向かい、座敷に上がることにする。


「三河屋楼主戒斗、失礼致します」


 すっと障子を開けて中を見る。


 今日の藤乃の客は信濃は信濃松代藩の真田信之、真田信政、上野の沼田班藩主の真田信直だ。


 本来であれば真田信政は春先に死んでるはずなんだが、歴史が変わってるのかまだ生きてるんだよな。


 真田信直は真田信之の庶長子である信吉の次男で、本来であればこのあとお家騒動を引き起こして結果的に改易されてしまうんだよな。


 ただ、その前の沼田領主であった信政が本家松代藩を相続し、沼田領を信直が領有することになるったのは2年前、信政が死んだあと自分が松代藩を継ぐと思ってもまあおかしくはないだろう。


 沼田領は実高3万石、松代の本領は10万石だから、本領を継ぎたいと思う気持ちもわかる。


 後継者として争った相手は信政の六男で2歳の信房だしな。


「というわけだからお前たちは協力して真田の家を盛り立てていってもらいたいのだ」


 そう言っているのは真田信之、御年93歳で本来であればもう寝込んでいてまともに動けないくらいのはずなんだが、なんか割と元気だ。


「ふむ、楼主よ来たか。

 このような語り合いの席を設けてもらい感謝するぞ」


 ちなみに真田信之が元気になったのは向井元升のおかげもあるし、バイオトイレなどにしたり玄米粥に食べ物を切り替えたりしたのもあるようだが、真田信政が元気な理由は俺にもわからん。


 とは言え彼が今後10年位元気に長生きしてくれればお家騒動も起こらないんじゃないかな。


「まったく、父上がもっと早く隠居してくれれば私もヤキモキせずに済んだのですぞ。

 信吉兄上の子に松代を継がせたいのかと思ってしまったではないですか」


 そういうのは真田信政。


「全くです、てっきり私に跡を継がせたいのかと思っておりましたよ」


 真田信直は同じように愚痴っていう。


「うむ、正直お前たちには済まなかったと思っておる。

 だが私も幼い将軍をなんとか頼むと酒井忠世殿や酒井忠勝殿に頼まれておったしな。

 当然それを無碍に断れば角が立つと言うのはわかってほしいのだ」


 真田信之は二人に対して済まなそうにそういった。


 そしてポテトのポタージュスープのはいった器とワインの入った盃を俺は3人の前に差し出した。


「これは土地が痩せていて寒い場所でも良く育つジャガイモを汁にしたものと西洋の葡萄酒です。

 皆さんどうぞ召し上がってください」


 じゃがいもに含まれるビタミンは加熱してもあまり損なわれない。


 日本ではアク抜きや寄生虫対策なども有って、野菜を加熱して食べることが多く、葡萄や林檎の栽培はまだ進んでいないのでビタミンCは寒い地方ではどうしても不足しがちだ。


 またワインのポリフェノールなどのファイトケミカルが体に良いのは21世紀では広く認知されてきていた。


 茶が薬代わりになるというのも同じ理由だからな。


 まず彼らはポテトのポタージュを口にした。


「ふむ、なるほどこれは悪くないな」


「うむ、たしかにこれなら普通に食える」


「確かに、これならジャガイモの栽培を広めるのも良いかもしれぬな」


 そして次にワインを飲む。


「米酒とはまた違う味わいだな」


「ええ、ですがわるくはありませぬ」


「うむ、これはこれでなかなか悪くない」


 俺は彼らにじゃがいもの種芋とぶどうの種、それぞれの育て方や食べる時の注意を書き記したものを渡した。


「はい、ぜひ松代や沼田にジャガイモと西洋葡萄を広めていただければと思います」


 種芋と種を受け取って真田信政がいった。


「うむ、信濃は田に向いた土地が少ないゆえ助かるぞ、早速広めるとしよう。


 同じく種芋と種を受け取って真田信直がいった。


「沼田も稲作にはあまり向いているとはいえぬ土地だ。

 早速広めるとするぞ」


 俺は二人に頭を下げた。


「ご理解いただきありがとうございます」


 これでみんなのわだかまりもなくなって、その結果お家騒動がなくなって、沼田の領民が飢えたりすることがなくなれば、沼田の方の領地を改易で失うこともなくなるんじゃないかな。


 できればそうなって欲しいものだな。

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