新築していた切見世の長屋が完成したぞ

 さて、先月から建てていた切見世女郎の住居兼見世である長屋の上棟式から時間も立って無事建物が完成した。


 漆喰壁にしたせいでおもったより時間がかかったな。


 白壁のきれいな新築の長屋は思っていたよりずっと立派に見えた。


「うわー、立派な長屋ですわ、ほんとにここに住んでいいんです?」


 切見世の女郎達は随分と喜んでいる。


「ああ、勿論だ。

 俺はこれがこれから切見世の普通の長屋になるようにしていきたいと思ってるぜ」


 これは本心だ、漆喰壁は金や施工には時間がかかるがその分保温や吸湿、防音、防火等様々な面で優れているからな。


「本当に抱主さんがいいひとでよかったですわ」


「そうですわ」


 まあ、切見世の女郎たちも前に比べればだいぶ健康的になってるようだな。


 昼には劇場で人形芝居をしたり美人楼で仕事を手伝ったりして、体を売らなくても安定して金が稼げるようになったのは精神的にも大きいと思うぜ。


 やっぱ年取ってたり外見に問題があるときついのがこの商売だしな。



「まあ、早速だから荷物を移動させてくれ」


 俺がそう言うと切見世の女郎たちは元気よく返事をして動き始めた。


「はーい」


 まあ、彼女たちの荷物は大したものはないんだよな。


 大見世でも個人で持っているものは少なく、店側から貸しているものが多いのだが、切見世の場合は個人で部屋を持っているので家具などは損料屋と呼ばれる様々なものを貸し出すレンタルショップから借りることが多い。


 損料屋は店を構えているものもいれば、きいて回る行商も居た。


 そして損料屋ではふんどしなどの下着や浴衣、喪服などの一時的な使用の機会が多い衣料品、手ぬぐいや風呂敷などの布製品、鍋や釜などの炊事用品、布団や枕などの寝具、蚊帳、火鉢などの季節商品などたいていの日用品を貸し出していて、それらの品物を最初に借りるときに借り賃とは別に、一定の損料と呼ばれる保証金を預けることからこの名がついたそうだ。


 損料屋も貸し出す商売道具は大切に土蔵などに保存し、修理しては貸し、修理しては貸しと完全に使えなくなるまで使い続けた。


 江戸はそういったことも有ってゴミも非常に少なかった。


 ちなみにふんどしは意外と高くて買うと250文ほどだが借りるとなると一回60文ほど。


 ふんどしを普段からしているのは江戸の人口の3割から4割程度で、下級武士や貧乏な町人は祭りの時や吉原で遊ぶ時だけふんどしを借りたりした。


 ちなみにふんどしは洗濯しなくても返却OKで、汚いという気もするが女ばかりの井戸で男が一人寂しくふんどしを洗うのは肩身が狭いんだぜ。


「なんだかんだでみんなたくましいよな」


 切見世女郎というとそれこそ地獄のような生活であると思われがちであるのだが、俺が切見世の環境改善に手を付けてからそれを多少なりともよくなったと思う。


 長屋の中の広さは土間が二畳、畳は六畳にロフトのような階段がついた中二階が四畳ほど。


 奥側には木戸があって風通しも良くなってる。


 三方が壁ってのはやっぱいいとは思えないよな。


「うわだいぶひろい、しかも中二階付きってすごいですやん」


「まあ、物を置くには便利だろ」


「そうですな、冬とかは上で寝れば暖かそうですし」


「そいつもいいかもな」


 大見世の太夫や格子太夫の部屋から見れば全然狭いが、切見世の女郎が住んだり仕事をしたりするには十分な広さだと思う。


 それに部屋が綺麗なら遊ぶ客だってそれだけ気持ちよく遊べるというものだろう。


 移転してきたばかりだから新吉原の建物そのものは皆新築に近くは在るけど、切見世の長屋はボロい作りだしな。


 あと、切見世女郎用の献立はないが安くて栄養のある定食を出す定食屋や、天ぷらやワカメなどを気軽に追加できる蕎麦屋も移転させたぜ。


 食べ物のフォローはしないとな。


 衣服については基本古着なのはどうしょうもないが。


 まあ、養育院や養生院、犬猫屋敷に遊女手習いなどが出来たらそっちで働けるやつも増えるだろうし、これから切見世で働かないとならない環境の女も少しは生活がましになっていくといいな。

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