そろそろ茸の人工栽培に手を出してみようか・ついでに鰹節も作ろう
さて、色々やることも有って大変なところでは在るんだが、新しい施設の建築は大工の領分で俺の領分じゃない。
求人の募集に応募してきた奴の面接はちょくちょくやってるけどな。
吉原の人別改帳の作成や確認は高坂伊左衛門に投げた。
与えられた仕事に手を抜くような連中ではないと思うんで俺は俺の出来ることをやろうと思う。
「じゃまあ、そろそろ茸の人工栽培に手を出しますかね」
茸の人工栽培は江戸時代に始まるがまだこの時代には開始されていないはずだ。
因みにいわゆるカビの真菌類と茸は同じもので、茸やカビは植物でも動物でもない。
胞子を飛ばす植物で言う花に当たる部分がでかいのが茸、そうでないのがカビだと思えばいい。
なので、青カビの生えたみかんを他のみかんにくっつければカビが移るように、菌糸が張った茸の根っこ部分の木を原木に当ててやればカビと同じように茸も移るというのが茸の人工栽培の基本だな。
おがくずにきのこが必要とする必要な栄養を与えて気温や湿度を調整すれば室内でも栽培することも出来るが今はまだやらない。
で、実のところ霊芝や冬虫夏草、アガリスクといった薬効が高いと思われている茸とシメジなどの茸の成分はほぼ同じで、茸の主な薬効成分はβ―グルカンだ、β―グルカンには免疫を担当するマクロファージやリンパ球を刺激して免疫力を高める効果があると言われている。
それにきのこ類は昔から、食べる薬と言われていて、縄文時代でも食べられていたと考えられている。
縄文の遺跡にはきのこの形をした焼物がある、これは食える茸もしくは毒のある茸を教えるために作られたらしい。
その後、奈良時代には奈良時代の万葉集に歌われたりしている。
茸は驚くほどの薬効がある優れた食物なのだ。
きのこに含まれるビタミンで特に多いのがビタミンBで、ナイアシンはキノコ全般に多く含まれている。
他にもビタミンDの前駆体として存在するエルゴステロールが含まれていて、収穫後の天日による乾燥や熱によってビタミンD2になる。
代わりにビタミンAやビタミンCはほとんど含まれない。
ミネラルも豊富で亜鉛や銅などが適量含まれているしな。
その他にも真菌である青カビが細菌の侵入防止のために抗生物質であるペニシリンを生成するように茸も抗生物質を含んでいるのかもしれないけどな。
まあ、気をつけないと致死的な毒キノコも多く、食用キノコとあまり見分けがつかない場合もあるのが欠点だがな。
ブッダことゴータマ・シッダールタの死因も毒キノコによるものらしい。
まあ、それはともかく茸は食用にできる種類も多く、春や秋の味覚として香りや味を楽しめる。
さらにきのこには免疫力を高め腫瘍を消したりするのにも役に立つはずだ。
まあ、効果を期待しすぎてもいけないけどな。
そして山の中で出汁を取るための食物としては椎茸はとても珍重されている。
精進料理を基本とする寺の食べ物に椎茸は出汁の素として欠かせない。
また椎茸を干した干し椎茸は中国大陸への輸出品としても日宋貿易の頃から重宝されている。
まあそのせいでなかなか日本では椎茸が食べられず高級食材になってるんだがな。
さて、椎茸の人工栽培の始まりは江戸時代の頃に炭焼き用に積み上げたあるナラの原木に多数の「しいたけ」が自然に発生しているのを見たのが始まりだそうだ。
これは伊豆で元禄の頃にはじまったらしい。
江戸時代の人工栽培は炭焼き用の乾燥させた楢などの木にナタで切れ目を入れて気長に待つというものであった。
木の樹皮には細菌や菌糸類の侵入防止のための機構がある、まあ主に高濃度のタンニンを蓄えていたりなどだな、だから鉈で表面に傷を作ればそこから茸などが木の中に入り込みやすくなるわけだ。
無論この方法ではうまくきのこが生えてくればよいが生えてこない場合は大損害だった。
なので、もっと確実な人工栽培を行うことにする。
茸には大きく分けて2種類あって、生きている木に生える菌根菌系の茸、これはマツタケやホンシメジなどがそうでこれらは人工的な栽培は難しい代わりに、生命力が強くまとまって生えているので見つけるのはそんなに難しくない。
枯れた木や落ち葉に生えてそれを分解する腐生菌系の茸、これはシイタケやナメコ、マイタケなどのキノコがそうで、これ等は自然の中では倒木や切り株の切り口、落ち葉などに生える菌類で、腐生菌系は、人工栽培がやりやすい、切った木を使えるわけだからな。
まずは勘定奉行と寺社奉行、それに寛永寺の許可を取って上野の山に茸の採取と栽培できる土地を借りそこに入り茸の種となる茸が生えている木を探すとしようか。
寛永寺や奉行所には取れた茸の一部を納めることにする。
この時代は全体的に寒いのでまだぎりぎり椎茸は取れる範囲だろう。
椎茸は品種にもよるが10度から25度くらいまでの割と幅広い気温で発生できる生命力の強い方の茸だ。
まあ乾燥にはかなり弱いが。
「よし、じゃあ、今日は椎茸なんかを探しに山にいくぞ」
俺は生理休みや危険日休みの遊女や若い衆に背負子や籠を持たせて、上野の山へ向かう準備に入った。
みな山の中でも動きやすい服装にさせ草鞋や脚絆を足に巻きナタを持つ。
そして俺は下人の準備ができたことを確認してあるき出した。
「よし、いくぞ」
遊女や若い衆たちの準備も大丈夫なようだ。
館の留守は熊に任せる。
「あい、わっちらの準備はできていんすよ」
「戒斗様行ってらっしゃいませ」
皆で山に入り椎茸を摘み取っていく。
桃香が見つけたしいたけを持ってきてくれた。
「戒斗様ありましたー」
「おお、偉いぞ桃香」
俺は桃香に案内してもらいその椎茸が生えていた木の方をナタで適切な長さに断ち切って背負子に載せた。
「なんで木の方を持っていくんでやんす?」
「そりゃ、これを使えば茸を増やせるからだぜ」
「そうなんでやんすか?」
「多分だけどな」
「それは凄いでありんすな」
桃葉が屈託のない笑顔でニパッと笑った。
俺は桃香の頭を軽くなでてやる。
桃香はそれだけで十分嬉しそうだった。
山の中で見つけたものでも食うのに適していない小さいものは育つようにそのまま残し、野生の猪や猿、鹿などの獣や虫、カタツムリやナメクジなどが齧ったり雨に打たれすぎて、腐ったものは取り除きキノコがはえている原木に腐敗が広がらないようにする。
そして場所をちょこちょこ移動しながらどんどん収穫していく。
霊芝(れいし)こと万年茸(まんねんたけ)、木耳(きくらげ)、たもぎ茸、薄ひら茸などは茸の生えている枝ごと持って行く。
冬虫夏草もはえている昆虫の幼虫等ごと持っていくとしよう。
「きのこが生えた枝や虫ごと全部持っていくのですか?」
若い衆が不思議そうに聞いてきた。
「ああ、これをもとに人工的に栽培して増やそうと思ってるんだ」
「そんなことができるのですか?」
「まあ、成功するかはわからんがな。
多分大丈夫だとは思うがな」
そうして、皆の背負子や籠が種木や茸で一杯になったら上野の山を降り、寛永寺には椎茸をいくらかおいていく。
「さて、理論的にはそんなに難しくはないはずなんだが実際うまくいくかどうかはわからんのだよな……」
廓に帰ってきたが、大部分はは干して干しきのこにし、一部は新鮮なうちに吸い物にする。
「うむ、実にうまいな」
やはり椎茸はいいものだ。
しかし桃香は苦手らしい。
「うう、なんか変な味でやんす」
子供には椎茸は合わんか。
「わかった禿用には普通に味噌汁にしてやろう」
涙目だった桃香はそれを聞いてホッとしながら笑った。。
「うー、助かりんした、ありがとうございます」
俺も笑っていった。
「まあ、仕方ない、子供のうちは口にあわないものもあるさ」
俺も昔は椎茸は大嫌いだった覚えがあるからな。
いつの間にかうまくなるのも不思議なものだ。
さて翌日、俺は早速茸の人工栽培に取り掛かることにした。
一人でやるのは大変なので若い衆にも手伝わせる。
まずは手堅く原木を使った方法から始めよう。
俺は炭を売りに来ている炭焼き職人から炭焼きのため昨年の原木が葉を落とした頃に伐採して乾燥させたナラやクヌギを買い集め、それにナタを入れて、大釜で煮沸消毒したあと、再度乾燥させ、そこに椎茸が生えている木の半分を種木として使い、楔としてちょうどはまり込むようにくさび状に削って、鉈目にうまくはまり込むように細かく調整し原木の楔を木槌で打ち込む。
霊芝や木耳、たもぎ茸、薄ひら茸にも同じ木で大丈夫なはずだからそれぞれ鉈目をつけて種木を楔で打ち込む。
そしてそれぞれの植え込んだ茸が何なのかわかるようにきのこの名前を原木に削って書き込む。
冬虫夏草は養蚕で出る蚕の蛹を菌床にする。
そして原木に打ち込んだ接種した種菌が原木に活着するように原木の仮伏せを行う、雨の当たる木陰の地面に細めで長い木を二本並行に置いて枕木にし、その上に原木を並べ杉葉でおおっていく。
原木を地面に直接置くと雑菌が侵入し易くなるから地面には直接置かない。
冬虫夏草は腐葉土で覆って様子を見る。
2週間ほどしたら本来の茸が群生しているところに鹿や猪などの獣よけの柵を作り、そこに原木を置く。
まあ猿やナメクジには食われるかもしれないがそれはしょうがない。
そして榾木内の菌糸を均等に繁殖させるために天地返しを行う。
茸は基本的に高温と乾燥に弱く酸素も十分に必要とするので直射日光が当たらないようにしつつも通気性の確保のために下草や灌木等はちゃんと刈取る必要がある。
きのこの栽培は意外と手間と時間がかかるものだ。
早ければ翌年から遅くても3年後の秋までにはきのこが生えてくるはずだが2年たっても生えてこなかったらほぼ失敗と見ていいだろうな。
「あと、出汁で大事なのはカツオブシだな」
俺は魚屋からカツオを仕入れカツオブシを作ることにした。
これも一人でやるのは大変なので若い衆に手伝わせる。
まずカツオの頭と内臓を取り除き、三枚におろして形を整え、籠に入れて、釜で一刻(2時間)前後お湯を沸騰させない程度の火力で、煮立たせないように慎重に煮る。
この時の煮汁も出しとして使える。
カツオが十分煮えたら取り出した後に冷まし、鱗を剥ぎ、脂肪や骨の除去を行う。
この状態はいわゆる、生利節でそのまま食べてもうまいぜ。
まあ、長期保存はできないがな。
で、このあと、燻蒸して乾燥させ、表面を削って汚れを除き、水分を落とし、天日干しで乾燥させつつ、コウジカビを繁殖させ身を熟成させる。
表面にカビが繁殖したらこれをこそぎ落として、またカビを繁殖させを繰り返すと、カツオの身から水分が失われて硬いカツオブシになり、それ以上カビも付かなくなって長期の保存が可能になる。
まあこの工程には2ヶ月以上かかったりするのですぐにはできないが。
両方うまく出来たら出汁の素が増えて今よりも汁物がうまくなるだろう。
薬効の在るきのこが人工栽培で採れるようになればボッタクリな朝鮮人参も必要なくなるだろうしな。
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