夏は蚊の季節だ、その対策に蚊帳や馬酔木やハッカ油は色々役に立つ

 さて、そろそろ暑くなってきて蚊やあぶなんかも出てくる季節だ。


 吉原の周りはお歯黒溝で囲まれてるからボウフラなんかも湧きやすいしな。


「まあ、蚊を寄せ付けない方法は色々あるけどな」


 まずは伝統的な方法として寝る場所に使う蚊帳(かや)がある。


 蚊帳は主に麻でおられた小さな網目のメッシュ状のもので、蚊、アブ、ブヨなどの主に飛行する虫は通さず、通気は阻害しないというものだ。


「割と安く作れる割には効果が高いんだよなこれ」


 蚊帳は21世紀現代の日本ではアルミサッシによる通気性の確保により、防虫の役割は網戸に置き換わってしまったので殆ど使われていないが、この時代ではやっと庶民にも普及し始めたという代表的な防虫ネットで、初夏になると行商人が桶に蚊帳を入れ江戸の町内を「蚊帳ぁ、萌黄の蚊帳ぁ」という独特の掛け声で売り歩くのは初夏の風物詩でもある。


 この時代の木戸などだと立て付けが悪く隙間風が入ってくるのが普通なので蚊の侵入を防ぐのは蚊帳のほうが確実なわけだな。


 まあ、現代の家でも換気扇やエアコンのパイプの隙間なんかから蚊が入って来てしまうけどな。


 蚊は地球上の生物で最も多く人類を殺し続けている生物でも在り、日本でも蚊が媒介するマラリアや日本脳炎などで多くの人間が死んできた。


 マラリアは21世紀現代においても地球全体では年間2億人以上の罹患者と200万人の死亡者をだしてると言われるくらいだ。


 マラリアはマラリア原虫によって起こされる病気で、キナノキの皮から取れるキニーネが普及するまでは手の施しようのない病気の一つだった。


 ちなみにキニーネはトニックウォーターにも含まれる苦味成分だな。


 この時代除虫菊を用いた蚊取り線香はまだ無い。


 しかし、蚊遣火(かやりび)と呼ばれる防虫方法はあった、香炉でよもぎの葉、榧(かや)の樹皮、杉や松の青葉などを火にくべて燃やせば、羽を持ち飛行する虫は煙を嫌うため殺虫は出来なくとも虫よけとしてはそれなりに効果はあった。


 無論人間にとっても煙たいのは言うまでもないが。


 本格的に殺虫を行う場合は馬酔木(あせび)を使った。


 馬酔木は、春に鈴蘭のような綺麗で白い可憐な花をつけとても良い香りがするが、この木の葉や樹皮、花には強い毒が含まれている。


 馬酔木と言う名前は馬が食べると毒でよろめいて酔っ払っったようになってしまうからつけられたものだからな。


 その葉っぱを乾燥させて燃やせば、蚊もイチコロだ。


 ちなみにアセビの枝を折って、畑の野菜のうねの間に挿しておいても害虫よけになるし、葉を煎じて濃縮した液体は汲み取り便所のウジを殺すのにもつかえるぞ。


 あと、ハッカの香油も虫除けになる。


 ハッカというのは要するにミントだな。


 西洋のペパーミントやスペアミントと種類は少し違うが東洋にもハッカは在る。


 この植物の葉の精油の匂いは多くの虫が嫌い逃げていくのでランビキと呼ばれる香油を採るための蒸留器でハッカ油をとり其れを小皿に入れて部屋の四隅においておけば虫よけになり、其れを肌に塗れば冷涼効果がありしかもその香りは気分をすっきりさせてくれる、液体石鹸に加えればトニックソープとして冷涼感のある石鹸になるし、浴槽の風呂にハッカ油を垂らすと温かいのに清涼感のある風呂になる、うがいの水に加えても口の中がスッキリする上に殺菌や口臭予防になるし、乾かして刻んだ葉を煙草の葉と一緒に煙管に入れて吸ってもメンソールのような清涼感が得られるとなかなか万能だ。


「とりあえず、遊女全員分、蚊帳をかって使うようにするとして部屋を開けて貰い馬酔木を焚いて殺虫した上でハッカ油を入れた小皿を部屋の隅においておけば完璧かね」


 蚊は色々と怖い。


 だから対策をしておくに越したことはないからな。


 三河屋、西田屋、切見世、美人楼、万国食堂などの俺の見ている店だけじゃなく、玉屋や三浦屋、山崎屋にも同じようにやることを勧めておいたぜ。


 まあ、やるかやらないかは俺にはわからないけどな。


 この江戸時代は比較的寒いとは言え蚊はいるし、やっぱりマラリアや日本脳炎は怖いから対処できるようにしておくに越したことはない。


 そして病気にならないように予防するほうが結局は安上がりだ。


 ついでにハッカの香油やハッカ入り液体石鹸などは美人楼で虫除けにもなる清涼香油として売り出したぜ。


 これもなかなか評判が良くバンバン売れたぜ。


 熱い時に涼しい効果があり殺菌効果で匂いを消したりも出来るからな。

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