とりあえず孤児院や病院の建物の建設開始とともに人材募集を開始するぜ

 さて、おそらく水戸の若様や尾張・紀州の殿様、それに綱吉公が推し進めてくれたんだろうが、長崎から伊豆大島へ出島が移動するということでこれからは西洋や中国の食材なども手に入れやすくなるだろう。


「それに動物の去勢も多分しやすくなるだろうしな」


 実は日本で動物の去勢が多く行われるようになるのは明治以降、軍馬にちゃんと行われるようになったのは日清戦争後だったりする。


 これは武士は荒馬を乗りこなしてこそという習慣が有ったかららしい。


 村なんかでは牛馬は高いものだから去勢なんてとんでもないというのも有っただろう。


 しかし、日本以外では洋の東西を問わず、馬・牛・豚・羊・山羊・犬・猫などの家畜動物の去勢は行われていたし、日本に中国大陸から馬が持ち込まれた時に去勢技術も一緒にも入ってきたはずなのだが、その技術はいつの間にかほぼ消滅してしまっている。


 しかし、去勢術の知識自体は時々海外から入ってきており、この時代でも武蔵国川越の町名主である榎本弥左衛門が記した榎本弥左衛門覚書で1656年に川越城内の厩舎の気性が激しく人を踏みつけたり噛み付く荒馬4頭の去勢を行い、結果大人しくなったという記述がある。


 家畜の去勢の本来の目的は気性が荒かったり、癖が強く人に従順でない家畜を去勢することで、その血を残さないためと、気が荒い動物を去勢することにより従順にして管理し易くするためだったりする。


 野良犬や野良猫を預かる以上、それ以上無駄に増えないように去勢は必要だからな。


 俺が建築や管理を任された主に捨て子や捨てられた老人の救済施設の孤児院である養育院、行き倒れや貧しい病人や怪我人などの救済施設の病院兼薬局兼薬草園であるである養生院、病気や怪我、野良の犬猫などの保護と躾などを行う犬猫屋敷、そして遊女の教養や芸事を活かした境域施設である私塾の建築を開始するわけだ。


 建築に必要な材木は妙の実家である木曽屋やその知り合いに頼んで集め、建築はいつもの権兵衛親方と切見世の建築が終わったらそっちを任せていた銀兵衛親方にも頼むことにする。


 さて問題はそこで働く人材だな。


「もはやどう考えても間違いなく一人で手が回るレベルを超えてるよな……」


 というわけで、またまた人材募集をすることにする。


 まずそれぞれの施設を切り盛りする番頭格はまた番頭新造や経営が苦しく廃業を考えている商人や遊郭などから募集する。


 それと幕府から与力を一人ずつ派遣してもらう、人や獣の出入りの確認やかかった費用の確認などが出来るのはそれなりに教養や実務経験がないと無理だからな。


 与力と募集した番頭はお互いの監視役でもある。


 金を盗まれても困るしな。


 養育院は子供の面倒を見るので主に切見世の女郎や、武家や町人の女で子育て経験者の女や隠居して暇な老人、経済的事情で夜鷹などをせざるを得ない武家の女などから集める。


 まだ飯が食えない年齢の捨て子の可能性も考えて可能なら乳が出ることが望ましいとした。


 ちなみに西田屋の元内儀母子はここで働かせることにする、そろそろ遊ばせておくわけにも行かなくなってきたし、両方子育ての経験はあるみたいだしな。


 養生院は病院なので漢方、蘭学にかかわらず医者と患者の面倒を見る看護師に相当するものを募集する。


 ただし、医者は医学知識について直接俺が面接して採用不採用を決める。


 ヤブ医者ばっかでも困るし、実際この時代の町医者のレベルはさほど高くないしな。


 外科医師である金槍医師や内科医の他に、骨折などの対処の整形外科医、眼病の眼科医、婦人病の婦人科医なども専門で集め、その他にも消毒用の手洗い用の液体石鹸の製造、高濃度アルコールの蒸留や患部を保護するための包帯として使うサラシの購入、骨折や捻挫の時の添え木、片足を怪我した場合の歩行補助用の松葉杖などの作成、肺炎や敗血症、梅毒の対処のためにペニシリンの生成も行わせる。


 看護師も男と女を分けて集める、入院者の入浴や着替えなんかもさせる場合があるからな。


 男の面倒を女が見たりするとトラブルも起こるだろうし、その逆もしかりだ。


 その看護師はやはり切見世女郎や弾左衛門などに頼んでおもに非人の男女から集めることにする。


 病人を相手するのはやはり病気が移るのが怖いものが多いようだし、この時代の病は穢れの一種と思われているし、どうしても死者も出るから、そういったものを墓地まで運ぶ役目もあるしな。


 養育院で育てられた子供は基本的には将来育ったら養育院などの俺の施設で働くことになる。


 老人は子守や農作業などをしてもらう。


 なんだかんだで老人の知恵は馬鹿にできないし老人は子供が好きなやつも多いからな。


 女で遊女になりたければそれもありだ、その分容姿がすぐれてないといけないし覚えることが多くて大変だと思うがな。


 養生院に入院したものは、金があるやつなら入院費用を分割で返済させる。


 金や身寄りがなければその後養生院で働くか、牛痘などの試験に参加してもらうことにする。


 完全無料だと仮病で入院しようとするやつも出るかもしれないしな。


 養生員に併設される薬草園に関しては薬草や農業、畜産に関しての知識のあるものを公募する。


 薬草だけでなく病人に与える栄養食となる鶏や山羊も育てないといけないしな。


 犬猫屋敷については猿廻し・鷹匠や犬・猫・ねずみ・蛇などを扱って芸を仕込んだ経験のあるものや去勢の経験者を公募する。


 私塾は基本的には休みの遊女が師匠役を務めるが町の三味線の師匠なども働けるようにはするぜ。


「これで人は来てくれると思うが、また人が来すぎても辛いところだよな」


 俺と一緒に奔走している妙が頷く。


「そうですね、できればきた人全員雇ってあげられればいいのでしょうけど」


 同じく忙しく書類に埋まっている高坂伊右衛門もいった。


「しかし、公儀より金が出るならばいささか人を増やしても良いと思いますぞ」


 俺は苦笑した。


「たしかにそのとおりなんだが、経営は経営でちゃんとしないとまずいだろう。

 いつまでも公儀も金を出し続けてくれるかどうかわからないしな」


 高坂伊右衛門はうなずいた。


「まあ、そうではありますな」


 まあ、これで少しでも捨て子や捨てられた老人、動けなくなった病人や怪我人が餓死したりして野犬に食われたりしないで済むようになれば良いな。


 建物が完全に出来上がるまでにはそれなりに時間もかかるだろうし、その間に必要な知識を持ったものを必要な人数集められればいいけどな。

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