賭け狂い

賭け狂い



よく晴れた日だ。


カーテンを開き、窓を開けて甘い毒薬を飲みほす


不必要なものには毒薬、必要なものには良薬、いやいや限りなく毒に近い琥珀色のそれ


全身がバグるような不快感


視界が滲むのは涙が止めどなく流れるから


瞳を閉じれば無数の図形に埋もれてしまう


空気を求めて喉を引き裂く


不快感は身体を溶かして世界を飲み込む


不安 不快 不安 不安 不快 不快 不安


不安不安不安不安不安不安不安

不安不安不安不安不安不安不安

不安不安不安不安不安不安不安


それでも叫んではいけない


考えてはいけない


考えれば 叫んでしまえば


それは無数の手となりて地下の地下の更なる地獄へと引きずり降ろされるから笑え!


笑うのだ! 無理にでも 騙せ 騙し通せ!


自分を己を我を自らを私は幸せなのですと誤魔化せばいい


濁流の中に佇むような無謀を何故繰り返すのか?


答えは見つからない 見えるはずがない


だって目の前はまるで溶けていく


存在もあるのかどうかさえわからないのに


それを考える必要があるのか?


深海の底で水圧に拘束されているように動けずに私は物言わぬ貝となる


貝の次に雲になり岩になり水になり私は一つの感情と成り果てる


恐怖 ただ恐怖。 そして後悔に懺悔


ああお許しくださいお許しください私はもうこんなことは致しませぬ。 だから私の筋肉をお返しください


今日が最後なのだ。 今日で終わりなのだと私をそれにしないでください


自我は削られてトーストに乗せられ


誰かの口の中に運ばれ咀嚼され吐き出されるてもその中で蠢くものは私なのか?誰なのか?


ああ怖い。怖い。 理由もわからない純粋な恐怖にはどんな慰めも無力であり抗することもできない。


私はひたすら目を瞑る。


時間が過ぎ去るのを待つしかない。


しかしその間ですら私を私ではない誰かに塗りつぶされていくのを感じるただひたすら身体を丸め込んで耐えるしかなく


果たして無事に戻ることができるのでしょうか?


誰か教えてください。


お願いします! お願いします!お願いします!


この狂った賭けを最後にしないでください!


やがて霧は晴れて、不快感は若干の染みを残して消えていく


瞼を開く。 ゆっくりと。 ゆっくりと。


そこはいつもの部屋。 埃と汚物にまみれた馴染みのある場所。


未だふらつく足でゆっくりと歩き、


外を見る。


ありふれた世界がそこにある。


ああ帰ってこれたのだ。


足元には溢れた毒薬が床の上で埃に吸収されて灰色に変わっている。


呆然とそれを見下ろしながら、狂った賭けに勝った男は額に手を当てて座り込んだ。



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