あなたの死を見つめましょう。

もう必要も無いのに窓を開け、部屋の中に風を通しましょう。


あなたはとても暑がりで、もう初夏の頃から暑い、暑くてかなわないと言っておりました。


そっと触れるあなたの指先、腕には一片の熱もこもっておらず、さぞかし涼しいことでしょう。


それでも私はあなたの為、外の世界でよく鳴く蝉の声と共に涼風を届けたいのです。


チリンチリンと鳴く風鈴、生きる私の肌に滲むじっとりとした汗で濡れた両腕をもう動くことのないあなたの右腕に絡ませて昔を思い出すのです。


思い出は塵のように儚く、それでもうっすらとした残滓を残していく。


私は生きなければなりません。


貴方は生きてなければなりませんでした。


瞳の奥から溢れる悲しみの汗がポツリと貴方の頬に落ち、私はそれを袖で拭いましょう。


いずれ日が落ちて闇を迎えるように。


うるさく喚く蝉達が静まりかえるように。


貴方はひっそりと消えていくのですね。


私も同じように。


出来ることならば共に。


叶わぬ願いの未練を貴方にポタポタと落としながら


私は瞳を閉じます。


闇が晴れて朝が来るまで。


蝉達がまたけたたましく歌う時まで。






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