サイケデリックな現実を旅立ち、辛き夢の中へ

曲彩色で多種多用な紋様が閉じた視界の中で広がっていく。


世界の分子結合はユラユラと揺れて蠢き、円環しつつ、ひどく儚い物だったのだと認識する。


想像力を越えたシンプルな世界。


それ故に画一的で、思考のかけらもない平等な空間。


これが真理ならば、なんて退屈でつまらないのだろう。


所詮感情など『脳内物質の混合による幻覚』なのだとわかってはいる。


しかしそれゆえにその『化学反応』と各人の技術による産物は現実に生きている自分達を心地良く刺激してくれる。


だがここにはそれが無い。


ただ異質なる魂の分子によって結合を歪められた『人という名の一匹の獣の魂』は、雑然として不快感と不規則で混乱した異空間へと放り出されているだけだ。


そこには獣と人を決定的に隔てている筈の思想がない。


思考が無い。


濁流のような奔流が流れていくだけ。


そして何より『私』という自我もない。


記録カメラのように観察者がそこに在るだけだ。


まるで水面に浮かぶ一欠片の草のように浮かぶだけ。


あるいはただただペラペラと開かれていく本のページを見せられているかのようだった。



薄暗い部屋でめくれた壁が舌を出し、ネオンのような紫の光で構成された『誰か』が話しかけても、虚しくただただ全ては通り過ぎていく。


今までの世界が夢の中であって本来の私は一メートル数十センチの小さな空間でただ寝そべっているのかもしれないという『真実』に気づいたとしても。


私はその夢の方を愛する。


人はそこで生きようと決めたのならその場所こそが本当の世界なのだから。


たとえそれが酷く歪で、時に自分を傷つけて、悪意と嘲笑にさらされようとも、私は『私』の思想を持ち、思考し、時に間違えた決定をする愚かな観察者になろうとも。


私は『私』というという自我を持つのだと決断する。


時にはそれを後悔し、逃れるために罪を侵しても、ただただ私にしか出来ない『何か』を。


『本当の現実世界』から逃れて、『辛い夢の世界』でそれを突き詰めていくのだ。



さあ『夢』の中を歩もう。


退廃の毒を片手に持ち、絶望と憤りの世界を生きている限り。


そしてやがて必ず来たる孤独な旅路の果てに向かい、その先の無まで。


いずれ誰もが行くところに堕ちるまで。


所詮はそれしかしたくないのだから。



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