せめて、一雫だけでも
水面に揺れる紅葉の切れ端は溺れそうになりながらもユラユラと水の上を滑っている。
時に沈み、浮かび、全身をずぶ濡れにしながらあてどもなく動いてる。
そっと指をつけるとヒンヤリと冷たい。
温もりのカケラもなく、夏には青々とした緑に染まっていたそれは今ではすっかりと錆びついてしまっていた。
優しく摘んだはずなのにバラバラと砕けて水の底に沈んでいく。
どうしようもないのにひどく狼狽しながら僕は掬いあげようとしたけれど小さく崩れた葉は水の底に堕ちてもう浮かび上がることはない。
ただ切れ端の一欠片だけが掌の窪みに出来た水たまりの中で心細げに浮かんでいた。
そっと手を閉じながらせめてこの温もりが冷たい一雫の中の一部を暖めてくれるのを僕は静かに祈った。
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